「恋愛ほど自分自身がうろたえるものはないですよね。だから、うろたえる様を見せまいと、それまでラブソングを書くのを避けてきたんです。いま思うと怖かったんでしょうね。それで、当時のプロデューサーにご指南いただいたりしながら、なんとか書き上げた。こっちもあとがないわけですから。そしたら、これが初めてのスマッシュヒットになった。ああ、これか、とそのときかすかなきっかけをつかんだ気がしたんです」
この小さなきっかけから始まった福山雅治の世界は、こののち急速に拡大していく。作詞・作曲家、プロデューサー、写真家、シンガー、そして、近年大きなウェイトを占める俳優業。もはや、そのすべてがビッグビジネスとなっている。ひとりのアーティストを軸にあまたの人が集い、仕事はダイナミックに動いていく。いやでも重責を感じざるを得ないのではないか。
「うまくいってるときは重責とかは全然感じないんですけど、この間のドラマ(『ラヴソング』)のように視聴率で苦戦すると感じますね。やっぱり、うまくいかなかったときには、本当に申し訳ないなと思います。期待値をもって集まってくださるみなさんに対して、ちゃんとそのハードルを越えなきゃ、ということはいつも感じているので。それでも、仕事においてはそういうプレッシャーはあったほうがいいと思っています。自分が想像していた以上の結果というのは、結果として強いプレッシャーがあったときのほうが出る、と
感じています。経験上、ですが」
「一方で、作品の完成度さえ高ければ、自分の思いどおりに創作できれば、というアーティスト的な欲求はないですか」と尋ねてみた。
「でもやっぱり、視聴率、収支といった数字の及第点は取りたいです。数字に出ない影響力というのももちろんあるんですけども、数字は次の何かにつながっていきますから。一回一回及第点を取っていかないと、つくりたいと思う作品や、作品選びの振り幅はどうし
ても狭くなっていくんじゃないでしょうか」
(文・一志治夫)
※アエラスタイルマガジン32号より抜粋