●「目標は金メダル」と言えるたくましさを身につけ、リオへ。
このころから、畠山は、リオ五輪での目標を「メダル、いや金メダル」と言うようになってきた。決して思い上がっているわけではない。山崎強化本部長の言う「金メダルを目指していないとメダルには届かない」が選手にも浸透しているのだ。
それは、「金メダルを目指すだけの練習をする」という覚悟の表れ、とも言える。畠山をはじめ、フェアリージャパンの選手たちは、決して「順風満帆、自信満々」のキャリアの持ち主たちではない。スタイルや柔軟性などの「素材」としては評価されながらも、周囲からの期待になかなか応えられないという経験もしてきた選手たちだ。
だからこそ、「フェアリージャパンPOLA=日本代表」という立場に立ったときに、そこにしがみつけたのではないかと思う。つらいことがあっても、思うようにいかなくても、「なにもフェアリーじゃなくても」とは思わないでいられたのではないか。
6月15日に行われた「日本代表発表式」での記者会見で、畠山愛理は、現在のチームについて「他の国にはないチームワークが私たちの強み」と言い切った。この日も、当初予定されていた登録メンバー5人の発表はぎりぎりまで延ばし、「最後の瞬間まで選手同士を競わせる」と山崎強化本部長は言った。
そんな厳しい競争にさらされながらも、畠山は「私たちは練習では切磋琢磨していますが、普段はとても仲が良いし、お互いに支え合っているチームだという実感があります。」と言う。チームみんなで、このチームをレベルアップしていこうとしている仲間なのだと。その雰囲気を作ってきたのは、キャプテンの杉本早裕吏や、五輪経験組の松原、そして畠山にほかならない。
この日は、リボン団体の曲を急に変えることになったということに対して、「大丈夫なのか?」という報道陣からの質問が相次いだが、畠山は「ロンドン五輪のときは、直前の日本での合宿でやっていた曲を、イギリスに着いてから変えたんです。それに比べたらまだ時間あるな、と」と笑って答えた。
五輪本番で着るレオタードもまだ決まっていないことに関しても、「スペインでのワールドカップのとき、新しく染めたリボンが、ぱりぱりに固まってしまって折り紙みたいになってしまったんです。それでもやれたんだから大丈夫です。」と笑った。
畠山愛理は、強くなった。たくましくなった。それはフェアリージャパンPOLAの成長、成熟にも必ずつながってくる。
リオに向かう前、ロシアでの最後の練習の日の朝、彼女はTwitterで「いろんな思い出がよみがえってくるけど、何よりこんな素晴らしい環境で練習させていただけた事に感謝。」とつぶやいていた。
高校3年間、大学での3年半をフェアリージャパンとして過ごしてきた自信とともに、感謝の気持ちを持って彼女はリオに向かった。リオでいつものように愛理スマイルが弾ける演技ができたとき、結果はついてくるはずだ。
(文・椎名桂子)