乗客は家族連れが多い。子供の泣き声がいつも響いている
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 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第7回はトルコ・イスタンブールのアタテュルク空港から。

*  *  *

 イスタンブールのアタテュルク空港でテロが起きた。6月末のことだ。40人以上が犠牲になり、200人を超える負傷者が出た。

 その2カ月ほど前、ちょうど犯人グループが銃を乱射し、自爆したあたりをうろうろしていた。

 アタテュルク空港は、二重のセキュリティーチェック体制を敷いていた。ターミナル入り口と搭乗前。日本の空港は1回しかチェックがないから、厳しい部類といえるだろう。しかし、チェックするのはトルコ人なのだ。

 僕が空港内を右往左往していた理由は、モスクワからアタテュルク空港行きの便が遅れたためだ。乗り継ぎ便はすでに離陸していた。

 指示されたカウンターにはひとりのスタッフもいなかった。乗り継ぐことができなかった乗客たちは、あっちだ、こっちだとカウンターを探す。

 ようやくみつけたカウンターで、スタッフとのやりとりが繰り広げられる。

「空港近くのホテルをとります。その手続きはイミグレーションの裏でやってください」
「トルコに入国して?」
「そうです。オフィスは入国しないと行けませんから」
「で、そこでホテルがとれなかったら?」
「ここに戻ってきてください」
「トルコを出国して?」
「そう」

 段どりの悪さはいかにもトルコだった。しかも、いとも簡単にトルコに入国できてしまった。イミグレーションでは、なんの質問もなかった。

「だからISに志願する若者はトルコに入国するのだろうか」

 入国スタンプを眺めながらそう思った。

 テロ実行犯や計画を練った男たちは、何回となく、アタテュルク空港を使っていたはずだ。そしてこの空港に流れる空気を感じとっていた。それは自由だった。ときにすさんという言葉に置き換えられるが。

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