さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第3回は中国の北京駅から。
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この駅から何回、列車に乗っただろうか。北京にはいくつかの駅がある。北京西駅、北京北駅、北京南駅。そしてこの北京駅。なぜかいつも北京駅から乗り込むことが多い。
モンゴルを越え、ロシアのモスクワまで7日かけて走る国際列車もこの北京駅から発車する。
いつも人であふれている。発券センターは建物の右側にあるが、何回も、「没有(メイヨー)」に泣かされた。「切符はないよ」という意味になる。
昨日も切符を買えなかった。モンゴル国境のエレンホトまでと伝えた。この列車は、モンゴルのウランバートル行きに連結されてエレンホトまで行く。ウランバートルまで買うと国際列車扱いになりぐんと高くなる。そこで中国区間とモンゴル区間を別々に買う。運賃はかなり安くなるはずだった。しかし、返ってきた言葉は「没有」。エレンホトまでの寝台はもちろん、普通座席の切符も売り切れていた。
残る方法はダフ屋だった。駅前で探した。しかしエレンホトまでの切符を用意できるダフ屋はみつからなかった。冬はダフ屋が少ないといわれた。
夏の繁忙期、ダフ屋の世話になったことがある。北京駅からウルムチに向かう列車の切符だった。硬臥(インウォ)という2等寝台切符が600元、日本円で9000円近くした。定価の3倍だ。