ダフ屋は駅員とつながっている。混みあう時期の切符を駅員に話をつけて、500枚、1000枚と仕入れ、旅行会社や個人客に売っていく。その代わり、売れ残りというリスクを背負う。日本円で100万円を超える資金が必要なハイリスク、ハイリターンの裏商売だ。
駅で客に声をかけるのは末端のダフ屋。元締はもっと大きな裏ビジネスに手を染めている。
公務員が利権を使って稼ぐシステムは、中国社会の細部まではびこっている。鉄道の職員は、ダフ屋を使ってひともうけを狙う。儲かりそうな路線は経験的にわかっていて、とくに1日に1便しかなく、終点のウルムチまで2泊3日もかかるような長距離路線が狙い撃ちされる。中国の公務員の汚職の規模からいえば、列車の切符をめぐるビジネスなど、その額は小さいのかもしれないが、窓口で「没有」と冷たくあしらわれてしまう旅行者は北京駅で頭を抱えてしまう。何回となく「没有」を経験していくと、ダフ屋に近づかないと旅もできない現実に辿りついてしまう。
今回はしかたなくエレンホトから先のウランバートルまで行く国際列車の切符を買った。国際列車は北京駅近くの国際飯店というホテルのなかにあるオフィスだけが扱っている。運賃はウランバートルまで2万円近くもする。とんでもなく高いのだ。
中国はどこまでいっても金に支配されている。北京駅を見あげながら、いつも唇をかむ。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など