意気消沈してもおかしくないロイスの一撃だったが、しかし、直後の62分、クロップがこの試合でベストの一手を打つ。
フィルミーノとララーナに代えて、ジョー・アレンとスタリッジを投入。システムを中盤ダイヤモンド型の4-4-2へ。スタリッジとオリギが2トップを組み、トップ下にコウチーニョが入る。
狙い所であるヴァイグル周辺のスペースに、最も調子の良いコウチーニョを置き、さらにドルトムントを攻め立てる。66分、コウチーニョはミルナーとのワンツーでヴァイグルをかわし、得意のミドルシュートを叩き込んだ。これで2-3。まだわからない。
クロップ采配が見事に当たったコウチーニョのゴール。終盤にセットプレーの2発を呼び込むことになる、この試合で最も重要なゴールだった。
一方、ドルトムントは失点後に香川のポジションを下げ、カストロ、ヴァイグルと3ボランチ気味へシフト。この守備の修正が利き、一旦はリヴァプールの勢いを受け流した。
そして10分ほどが経過した77分。意見の分かれる采配が行われる。トーマス・トゥヘルは、香川に代えてマティアス・ギンターを投入し、4-3-3から5-3-2へ。
4-3-3では、ムヒタリアンが相手サイドバックをマークして下がり、最終ラインに吸収されて実質的に5バックになる。そこでギンターを入れてムヒタリアンを前に出し、代わりに香川を下げた。
結果的には、より守備に重心を置いたドルトムントに対し、リヴァプールはさらに攻勢を強めることに。78分にコーナーキックからママドゥ・サコ、アディショナルタイムに入った91分にフリーキックからデヤン・ロブレンと、センターバック2人のヘディングが決まり、4-3と“3点”をひっくり返し、奇跡の勝利を収めた。
相手を受け止めようとしたトゥヘルの守備的采配。あるいは、香川を残して、より中盤のボール支配を高める選択肢のほうが正解だったのか。
いずれにせよ、ドルトムントのフリーキックの守備は、逆サイドで相手をフリーにしやすく、後半途中にもロブレンにボレーシュートを打たれるなど、最初から隙があった。アディショナルタイムに逆転を食らった場面も、スタリッジとミルナーがフリーキックに変化を付けてサイドを崩したとき、逆サイドでは何人もフリーになっていた。
ファーストレグでは、裏のスペース。セカンドレグは、中盤の底。そして仕上げはセットプレーの隙。
アンフィールドの熱量に押されつつも、相手の隙を的確に突いたリヴァプール。奇跡の逆転勝利であり、また、計算された逆転勝利でもあった。
文=清水英斗