この場面、タイミングは余裕でアウトだったが、日本でも今季から導入されておなじみとなったコリジョン・ルールのため、捕手のA.J.・エリスはブロックができず。確かに走者のベースタッチとエリスのグラブタッチは微妙な差だった。結果は判定どおりアウト。本拠地で立て続けにパドレスへ不利なビデオ判定が続いたことで、球場内の雰囲気は騒然となった。

 ビジターチームの選手にとっては、なんともやりにくい空気。それでも前田は長引いたビデオ判定の間も集中力を持続し、なおも続いた2死一、二塁のピンチで5番ヤンガービス・ソラーテを空振り三振に仕留める。5対0で6イニングを投げ抜いたこの時点で、前田のメジャー初勝利はほぼ確定した。

 このほかにも、2回には自らの悪送球で1死二塁のピンチを招いたものの無失点で切り抜けた。また、ドジャースは開幕から2試合連続で無失点勝利中だった。この流れでマウンドに上がるのは選手によっては余計な重圧を覚えかねないが、前田は連続無失点がプレッシャーになったと認めつつも「それを糧にできた」と語っている。

 メジャー初登板直前の焦り、エラーによる動揺、たび重なるビデオ判定での中断とその結果による雰囲気の悪化、そして開幕から続いていた無失点。メンタルのもろい投手ならば崩れてもおかしくない重圧のかかる状況を、前田は涼しい顔で乗り越えた。強じんな精神力を備えていることをアピールできたのは、確実に首脳陣の信頼向上につながったはずだ。

 あえて重箱の隅をつつくならば、この日の相手がもともと貧弱打線とされているパドレスだったことか。この日に0対7で敗れたことで、なんと開幕から3試合連続の完封負け。ドジャースに史上2チーム目となる開幕から3連続シャットアウト勝利を献上したように調子も底を打っていた。

 順当にいけば、前田の次回登板は現地12日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦。リーグ屈指の好打者ポール・ゴールドシュミットを中心に、昨季はナ・リーグ2位の得点、同3位の打率と出塁率をマークした強力打線を誇るチームが相手だ。幸いにも懸念が残る中4日ではなく中5日での先発だが、パドレスより手ごわい打線なのは間違いない。地元デビュー戦ともなる次のゲームでも好投を再現できるか。メジャーリーガー・マエケンの真価を問われる一戦となるだろう。