兵庫県北部、養父市にある廃校の体育館が、猫だらけになっているという。折しも空前の猫ブーム。廃校の猫屋敷が本当にあるのかを確かめるべく、現地へと向かった。
たどり着いたのは、昭和の終わりまで、スズの国内生産の約9割を担い栄えた明延鉱山がある、養父市大屋町の旧県立八鹿高校大屋校。2010年に廃校になった校舎の前には、逆立ちをした猫の彫刻が……。
実はこの施設、廃校になった校舎を改装して作った芸術施設「おおやアート村 BIG LABO(ビッグラボ)」なのだ。このアート村は、木彫(もくちょう)などのフォークアート(地域などで受け継がれてきた芸術)が盛んな同町に、暮らしとアートをつなぐ拠点を作ろうと2012年にオープン。ここで現在、猫がテーマの公募展「猫屋敷展」が開かれている。
入場券(一般300円、中学生以下150円)の販売所にも、招き猫の彫刻が鎮座している。これは期待が持てそう! と足を踏み入れると、そこにはめくるめく“猫ワールド”が展開されていた。猫の絵に書、木彫、石彫、陶芸、粘土、映像作品まで、あふれんばかりの“猫愛”が伝わってくる。
スタッフによると、その数なんと約150点。15年秋から募集したところ、プロの芸術家から地元の子どもたちまで、全国の猫好きたちから作品が寄せられたという。スタッフは「素材もいろいろで、猫の対応もいろいろ」と話す。
岡山市の芸術家、久山淑夫さん は、約半数の76点を出品。猫への情熱はなみなみならぬもので、約20年にわたって書きためたという色紙は圧巻だ。猫が生まれて成長し、死んでいくまでの流れを描いた色紙や、阪神大震災や東日本大震災と猫を絡めた色紙は、ぜひ現地で見てみてほしい。手足を伸ばした猫の背中に、数匹の猫がニャーニャー乗っている「猫のぼり」などの立体作品もあり、なんだかほほ笑ましい。
目を引かれたのは、フェルトや布、ビーチボールで毛糸に群がる猫たちを表現した、養父市のミケニャンベロさん制作の「もうどうにも止まらない」。全体のモフモフ感と口を開けた猫の表情がたまらない。flat.a.flatさんがフェルトで制作した帽子型の作品「猫かぶり」もすてきだ。こちらはかぶって楽しむこともできる。
アート村では、これまでにも動物園や水族館、昆虫をテーマにした公募展が開かれてきたが、今回はなぜ猫なのか? ブームに乗っかって? と疑問に思い、施設を運営するNPO法人「おおやアート村」のスタッフに聞いてみた。
「大屋町内のところどころに木彫の招き猫があります。ビッグラボのロゴも、その招き猫がモデル。それで猫をテーマにすることになりました」
かつては養蚕業で栄えた大屋町は、日本の養蚕技術をヨーロッパに広めた「養蚕の神様」上垣守国の出身地でもある。そして蚕(かいこ)や農作物を食べてしまうネズミを駆除してくれることから、招き猫は養蚕業の縁起物とされているのだ。木彫の招き猫は同町在住の松田一戯さんを中心とした木彫作家が制作したもので、穏やかながら、ちょっとおかしみのある表情だ。
おおやアート村の理事長で、自身も白黒と茶トラ、サビ猫の3匹の猫を飼っているという画家の田中今子さん(52)は、「猫は人間の生活に密着している生き物。あまり好きでない人もいると思うが、展示をきっかけに猫に親しみを感じてもらえたらうれしい。大屋町でのアート巡りも楽しんでほしい」と話す。
展示は16年8月30日までで、期間中には作品の人気投票や、猫のコスプレを作る工作体験も行われる予定だ。めくるめく猫だらけの世界を楽しんでみては?
(ライター・南文枝)