ホワイトデーが迫ってきた。「愛があればプレゼントなんて」と言うだけ言ってみるものの、愛もプレゼントも、何かしら期待してしまうのが悲しいところ。そんな折、兵庫県新温泉町の温泉郷、湯村温泉では “ラブ”、つまりハートを探す取り組みが行われているという。果たして、愛は見つけられるのか。
湯村温泉は、兵庫県と鳥取県の県境、山あいにある静かな温泉郷だ。吉永小百合さん演じる主人公、芸者の置屋を営む夢千代と、彼女を取り巻く人々との交流が描かれたNHKドラマ「夢千代日記」(1981年放送)の舞台でもあり、京阪神や鳥取を中心に、年間約22万人が訪れる。
今、この温泉街で話題となっているのが、地元の湯村温泉観光協会が2012年から始めた「幸せの隠れハート」探しだ。温泉街の中に点在するハートの中から5つ以上を発見、スマートフォンなどで撮影して協会が確認すれば、記念に足湯タオルがもらえる。
これまでに84カ所でハートが見つかっている。「ハート型の石」や「ラーメン店のゆで卵(ハート型)」といった分かりやすいものから、「電柱に掲げられた看板の夢千代のくちびる」や「荒湯天狗の象の口ひげ」といった「これがハートかい!」と難易度の高いものまでさまざまだ。
協会では、うち35カ所の場所を示した「幸せの隠れハートMAP」なるものを作製、無料で配布している。各ハートには難易度に応じてポイント(1~3点)があり、見つけたハートの合計点数で「愛は本物」(5点)、「愛は成就」(10点)、「愛は永遠」(30点)と愛の度合いが判定されるのだ。
協会によると、14年度は1006人がハート探しに参加した。15年度は、16年1月までにすでに1359人と、前年を上回る人気ぶり。2月のバレンタインデーは、週末だったこともあり多くの人がハート探しに興じたという。カップルや若者が多いのかと思いきや、ツアーが多いせいか、年配の女性グループだけでなく、男性グループも5つ探して記念品をもらいに訪れるそうだ。
15年秋からは、これまでに観光協会が確認していないハートを発見した人に、命名権と認定証書、ハート型のペンダントを贈る取り組みも始めた。現在の84カ所のうち、7カ所は新たに見つかったハートで、「うるは(わ)しの貴婦人ハート」「’CUORE’(イタリア語でハートの意) ◯◯(個人名)」(フランスからの旅行者が発見)などが発見、命名された。
新ハートの認定基準は緩く、協会は「ハートを見つけて認定証書をもらい、愛を形に」「ハートをいっぱい探して愛の大きさを証明して」(スタッフ)とホワイトデーにも期待する。特定の場所からでないと確認できない「大きなハート」もあるといい、「そこで愛の告白を」という声も。
ということで、筆者もマップを片手にハートを探してみることにした。最初は美容室の駐車場案内、懐かしのホーロー看板に描かれたニワトリの羽、歩道橋床面の桜のつぼみ、など快調に見つけられたが、だんだんとハードルは上がる。ちょっとやってみるだけ、のつもりがつい熱中してしまい、目に映るものすべてにハートがないか探すように。
「ハート、ハート……」とつぶやきながら、うつろな目できょろきょろする筆者の横を、大学生らしき女子のグループがマップを見ながらキャッキャウフフと歩いていく。うーん、なんだか可愛らしくてうらやましい。本来はこんな感じで探すものではないのか。
歩き疲れて中心部にかかる「温泉橋」でぼけーっと景色を眺めていると、なんと川の中にハートを発見! 1人だけど、にやにやしてしまう。微妙な達成感も得られる。もうすぐホワイトデー。相手がいる人もいない人もたくさんのハートを集め、さらに温泉でアツアツになってはいかがだろうか。(ライター・南文枝)