「僕は父親になれた喜び、家族が増えた幸福感と同時に、壮絶な疎外感を覚えました。生命のつながりという点では、妻と娘の絆は、僕が立ち入れない領域なんだと。妊娠後、自分の胎内でわが子を育てている妻にスタートの時点で出遅れているのに加え、この疎外感と確信のなさこそ、夫が父親の自覚や当事者意識が持てない最大の理由では」

 そこまで先生に断じられると、拙者に真の「父親の自覚」が生まれることなど永遠になさそうな気がしてきますな。やはり父親とは、あってなきがごとき、影の薄い存在なのでござろうか。

「実際に子どもに接する場面では、妻にかなう気がしませんよね。なかにはお母さん同様に上手に子どもの世話ができるイクメンもいますが、幼いころに自分より小さい子の世話をした経験がない男性にはなかなか難しい」

 そうそう、その通りじゃ。

「最強兵器のおっぱいが、男にはないのも致命的ですよね。自分なりに努力しても、育児の実務ではしょせん、二番手どまり。下手にイクメンを目指すと、自分の無力さを繰り返し味わうことになり、父としての自信が削られていく」

 結局、父は家族のためにせっせと稼ぐことくらいしか、存在意義がないのでござろうか。

「いや、あえて下手な育児をすることにも意義はあると思いますよ。妻はダメな夫の不手際を叱ることで『やっぱり私でなきゃ』という思いを強くする。ダメパパは母の自覚をより強化するのに役立っているんです。妻の育児ストレスの解消、母としての自覚強化のために、わが身をサンドバッグとして差し出すのが夫の存在意義かも」

 これまたどMな結論でござる。

「では、僕のとっておきのパパの存在感アピール法を伝授しましょう。それは家族を東京ディズニーランドに連れて行くこと。開園と同時にダッシュで人気アトラクションのファストパスを取りに走り、荷物持ちと撮影係をします。買い物する妻子に代わって行列に並んだり、パレードの場所取りをしたりするのもいいですね。パパの存在感はぐーんと増しますよ!」

 なんとも切ないパパアピールなれど、次の休みに試してみるか。

上田紀行先生
1958年、東京都生まれ。東京工業大学リベラルアアーツセンター教授。東京大学大学院博士課程修了。現代社会の諸問題についてマスコミ等で提言を行う。家庭では3人の娘のパパとして奮闘中。近著に『人間らしさ』『人生の<逃げ場>』など

※AERA with Baby 2015年12月号より抜粋

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