近畿大学が大阪・梅田に出店する養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所」。連日、開店前は行列ができるという
近畿大学が大阪・梅田に出店する養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所」。連日、開店前は行列ができるという
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「近大マグロと選抜鮮魚のお造り盛り」。(左奥から)大トロ、ブリヒラ、シマアジ、マダイ、赤身
「近大マグロと選抜鮮魚のお造り盛り」。(左奥から)大トロ、ブリヒラ、シマアジ、マダイ、赤身
マグロは1匹丸ごと入荷し、約3日で使いきるという
マグロは1匹丸ごと入荷し、約3日で使いきるという
「養殖魚に対する考えがくつがえされた」と話す料理長の植田さん
「養殖魚に対する考えがくつがえされた」と話す料理長の植田さん
イシダイ雌とイシガキダイ雄を交雑したオリジナル養殖魚「キンダイ」のお造り(近畿大学提供)
イシダイ雌とイシガキダイ雄を交雑したオリジナル養殖魚「キンダイ」のお造り(近畿大学提供)

 30年以上かけてクロマグロの完全養殖を果たし、今では“マグロ大学”とまで呼ばれる近畿大学(東大阪市)。2013年にそれらの研究成果を味わえる場所として、大阪・梅田と東京・銀座に養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所」をオープンさせ、大きな反響を呼んだ。3年目となる15年、そろそろ客足は落ち着いたかと思いきや、大阪店ではいまだに開店前は行列ができるという。

 梅田の商業施設、グランフロント大阪内にある大阪店。ランチの予約は受け付けておらず、オープン当初は2、3時間待つこともあったという。ディナーは毎月1日に翌月の予約を受け付けるが、現在でも週末の午後7時、といった人気の時間帯はすぐに埋まってしまうそうだ。

 ランチとディナーで1日に380~400人が訪れる。オープン時から店長を務める羽島俊之さん(46)は「3年間ずっと忙しく、普通の飲食店では考えられない状態」と話す。月ごとの売り上げの最高額を達成したのは15年3月、オープン22カ月目ということからも、根強い人気がうかがえる。

 魚は“天然もの”を重んじる傾向がある日本で、養殖魚のみを扱う料理店を出すのは挑戦的な試みだ。これには、日本の養殖研究をリードする大学側の「養殖魚に対するネガティブなイメージをくつがえしたい」という狙いがある。「肉や野菜は品種改良でおいしくなっているのに、なぜ『魚は天然』がもてはやされるのか」(同大広報)という思いが店舗のオープンにつながった。

 大阪店では現在、名物の近大マグロやシマアジ、マダイ、オリジナル養殖魚の「キンダイ」(イシダイ雌とイシガキダイ雄の交雑魚)、「ブリヒラ」(ブリ雌とヒラマサ雄の交雑魚)など10種類を超える養殖魚を刺し身やたたき、ステーキで提供する。どの魚も、和歌山県白浜町の水産研究所をはじめ、富山や奄美など全国各地の施設で厳密な管理の下、飼育されたものだ。

 同店を運営する飲食業、ダイナックの社員である羽島さんは、店長の依頼を受けた際、「養殖魚だけで勝負できるのか」と不安もあったという。しかし、近大マグロをはじめとする“近大卒”の養殖魚を試食してみて「天然ものにも負けていない」と感じ、挑戦する気持ちがわいた。

 料理長の植田克己さん(40)もそうだ。以前は「脂のくさみがあるのでは」と考えていた養殖魚への評価が、試食を重ねるうちに180度変わった。「えさの配合ややり方などを工夫している養殖魚は一定のおいしさを保つことができる。トータルとしての点数は高い」とし、その魅力を引き出すメニューを試行錯誤する。「生産者の思いを無駄にしたくない」と、仕入れた魚は残さず使用する。

 植田さんのお勧めは、やはりお造りだ。魚種によって食べごろが異なるため、マダイは和歌山県白浜町のいけすから生かした状態で大阪市中央卸売市場に輸送、使用する当日早朝にしめ、ブリは白浜町のいけすから出してすぐにしめるなど工夫している。「しめてすぐの歯ごたえのある身や時間がたって熟成された身の両方を楽しんでもらう」(植田さん)ためだ。

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