夏の風物詩、甲子園の地方予選が始まった。甲子園といえば思い浮かぶのが、名作漫画「タッチ」だ。高校球児だった双子の弟・上杉和也を事故で亡くした兄・達也が、その意志をついで甲子園を目指す物語。そしてそこには、ふたりの幼なじみだった浅倉南をめぐるラブストーリーも絡んでくる。
達也は高校から野球を始めたにもかかわらず、その高い能力を徐々に開花させ、見事、甲子園まで駒を進める…のだが、今回注目するのはヒロイン・南ちゃんの方だ。彼女は当初、和也や達也の所属する野球部のマネージャーを務めていたのだが、途中から友人に頼まれ、助っ人として新体操部に所属。そこで驚くべき才能を発揮しているのだ。そこで今回は、改めて南ちゃんの身体能力を検証してみたいと思う。
南ちゃんが新体操を始めたのは高校1年から。先述したように、新体操部のキャプテンがけがをしてしまったことで、その助っ人を頼まれたことがきっかけだ。新体操で助っ人選手が出場、というケースはおそらくレアだとは思うが、高校から新体操を始めるケースは決して少なくない。特に、タッチが連載されていた1980年代はまだ新体操のジュニアチームは少なかったため、ジュニアから新体操をしていた選手の方がむしろ少数派だっただろう。実際に1980年代に活躍した山崎浩子選手は高校から新体操を始め、後に五輪出場も果たしている。
だが、南ちゃんに関して驚くべきは、その実績をあげるスピードにある。助っ人で登場した競技会で好成績を収めて、地区大会に出場した。初めての公式戦でいきなり3位入賞を果たし、1年生にして都大会出場を決めているのだ。さらに、驚くべきはその内容だ。この地区大会で、南ちゃんはリボンの演技で10点満点中、9.75をマークしている。この得点がどれくらいの高得点であるか、新体操ライターの椎名桂子さんはこう話す。
「現在の新体操は20点満点で採点されるので、今のものとは比較はできませんが、1980年代なら、インターハイ優勝選手の得点が9.45点くらい。9.5点以上になると、国際大会で活躍する選手のレベルです」
実は南ちゃんはこの地区大会の直後、「新星現る」と、雑誌(おそらく週刊誌のようなもの)で取り上げられ、報道陣もやってくる騒ぎになっている。確かに高校生で国際大会レベルの成績を上げれば、マスコミが注目するのも無理はない。それに加えてあの容姿となれば、国民的スターになるのもうなずける。地区大会では3位となったが、続く都大会では準優勝するなど、やはりその実力は折り紙つきだ。
ちなみに、地区大会が3位に終わったのは、リボンで高得点を叩き出していたにもかかわらず、ロープでミスがあったため。これについては、作中で応援に達也がいなかったことが影響しているような描写があった。しかし恐らく、これに加えて練習不足が響いたのではないかと考えられる。というのも、大会直前になぜか南ちゃんは、この大会種目にないであろうフープを懸命に練習していたためだ。インターハイの個人は2種目で争われるので、それにつながる大会もすべて2種目で行われる。南ちゃんはリボンとロープで出場していたので、フープは少なくともこの大会では必要ないのだ。
初心者からいきなりスターになってしまった南ちゃんは、2年の途中まで新体操部と野球部マネージャーを掛け持ちしていたが、その後、野球部の代行監督からマネージャーをはずされるという憂き目に。野球部的には痛手だが、新体操に集中できる環境になったためか、南ちゃんはさらに快進撃を続ける。3年時にはインターハイ優勝を果たすのだ。
ちなみに、今回確認のために椎名さんに漫画のシーンをいくつか見てもらったのだが、気になる点があるという。南ちゃんの髪形だ。