「仏像ブーム」と言われて久しい。各地で開催されている仏像関連の展覧会は軒並み好調で、多くの人が足を運ぶ。2009年に催された「国宝 阿修羅展」は異例ともいえる94万人の入場者を記録。阿修羅ブームのさきがけとなり、多くの関連書籍や写真集など、「仏像本」の出版ラッシュにもつながった。
阿修羅展の会場となった東京・上野の東京国立博物館では、4月5日までに特別展「みちのくの仏像」が開催されていた。同展では国宝の薬師如来坐像をはじめ東北地方のさまざまな仏像が公開され、12万人を超える来客となった。
また同館では5月17日まで「インドの仏」展を開催中。仏教のふるさとであるインド・コルカタの博物館から90件の美術品が来日、これが連日の大盛況となっている。
「仏像好きとして知られるイラストレーターのみうらじゅんさん、作家・クリエーターのいとうせいこうさんが、インド仏像大使として就任。おふたりの情報発信もあって、若い方にも多くご来場いただいています」とは、インドの仏展・広報事務局。来場者には若い女性が目立って多く、「仏女」「仏像ガール」の存在を改めて実感する。女性誌でインド特集が組まれたり、ツイッターなどのSNSを通じてインドの仏展の評判が広まったことも影響しているのでは、と広報事務局では分析している。このゴールデンウィークはたくさんの来場者が訪れそうだ。
仏教に関連したイベントやフェスも増えている。そのなかでも最大規模のものが、東京・増上寺を会場とした「向源」だ。5月2日と3日に開催される。仏教と音楽を軸としたイベントとしてはじまり、今年は坐禅入門、仏教×神道トークショー、能楽体験などなど、およそ40種類の体験ができる。
「向源」の副代表でもあり、僧侶が集まるウェブサイト「彼岸寺」の創設メンバーでもある浄土真宗東本願寺派・緑泉寺住職の青江覚峰氏が語る。
「仏教イベントが増えてきたきっかけは、3.11ではないでしょうか。あの大震災で、いつどんなことが起きるかわからない、諸行無常という言葉を、肌感覚として実感するようになった。これを“耳が開いた”と表現しますが、そんな人々が多くなったことが、イベントの増加につながっているのではないでしょうか」
30~40代の女性がこれまでの仏教ブームの中心だったが、「向源」の参加者は年々、幅が広がっているという。20代の若者や、男性も多くなった。
「体験講座から会場整理まで運営はボランティアによってまかなわれるのですが、このメンバーは10代から60代まで多彩です」
日常で感じるさまざまなストレス。週末に遊びに出かけるなどして一時的に、対症療法的にこれを和らげることはできるかもしれない。しかしストレスそのものと向かい合い、根本的な治療をするために、仏教的な考え方を役立てようとする人が増えているのかも知れない。
そして、4月からdot.でスタートした「仏像さんのつぶやき」。アジアや日本の、仏像やお地蔵さんが、日替わりでなにかを呟く。なんの教訓も教えもそこにはない。が、どこか安らぎを覚えるのだ。ホッとさせられるのである。仏像のユニークな表情。のほほんとした呟き。朝、電車のなかでスマホを開いてまず、どんな仏像さんがなにを呟いているのかチェックするのだ。
完全に定着した仏像ブーム。インターネットの世界でも、仏はいきいきと息づいている。
(室橋裕和)
【関連リンク】
向源 http://kohgen.org/
仏像さんのつぶやき http://dot.asahi.com/butsuzo/calendar/