男性にくらべ、女性が複雑なやり方で「マウンティング」しあうことは、しばしば話題になります(注5)。男性の「偉さ」を決める要因は、年収や職業など、いくつかに限られます。これに対し、女性同士の「どっちが上」を決める尺度はさまざまです。40歳で「独身・子どもなし・年収1000万円」と「専業主婦・子ども一人・夫の年収500万円」――両方に「私の方がエライ」と主張する言い分があります。
ほとんどの女性が込みいった「マウンティング」合戦に巻きこまれ、疲弊しているようです。このため、自分から「マウンティング」をしないタイプの女子は、同性から全方位的に好かれると、様々な文献で指摘されています。
小泉今日子は昔から、女性の「アンチ」がほとんどいませんでした。松田聖子や中森明菜とくらべても、この点は際立っています。
芸能人が書評のような「文化系活動」に乗り出すと、「無知なくせに見栄を張って」と批判を浴びせられたりします。そういう声も、小泉今日子に限っては聞こえてきません。
「私」をさらすことが苦手だから「マウンティング」しない――この性質が、小泉今日子の「敵の少なさ」の大きな理由だといえます。
「文学系アイドル」は、文才や教養を示すことで「マウンティング」しようとしていた人たちです。彼女たちがスキャンダルを起こしたときに、同性が向けた目には厳しいものがありました。このことも、小泉今日子の「嫌われない理由」を、反対側から物語っています。
※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました
注1 香山リカ「キョンキョンのポワン・ド・キャピトン」(『月刊カドカワ』1990年10月号 角川書店)
注2 小泉今日子「本人自身によるヒストリー&全アルバム解説」(『月刊カドカワ』1990年10月号 角川書店)
注3 注7に同じ
注4 小泉今日子「独りであることの美しさ」(『Swich』2008年8月号 スイッチ・パブリッシング)
注5 瀧波ユカリ・犬山紙子『女は笑顔で殴りあう・マウンティング女子の実態』(筑摩書房 2014)
助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など