ケガを乗り越えここまで立て直してくることを、誰が想像できただろう。羽生結弦(20)はやはり、ただ者ではなかった。
フィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル男子フリーは14日、スペインのバルセロナで行われ、ショートプログラムで首位に立っていた羽生が自己ベストで連覇を達成した。
現地で取材したジャーナリストは、次のように話す。
「最初の4回転サルコウと次の4回転トゥーループが鮮やかに決まると、静けさに包まれた会場は一転、大歓声が沸き上がりました。それは、満身創痍の五輪王者への声援ということもありますが、実に美しい2つのジャンプだったことによるでしょう。力まず自然に、それでいて速い回転。流れるような着氷。見事でした」
先月のNHK杯では、同じ冒頭のジャンプが2回転-3回転で転倒となり、精彩を欠いていた。このとき大勢を占めていたのは「欠場すべきだった」という意見。それから2週間。中国杯での大ケガからも1カ月あまりしかたっていない。
何が変わったのか。元五輪選手でプロスケーターの渡部絵美さんが解説する。
「羽生選手の良さは、鋭く速い回転のジャンプにあります。明らかに練習不足だったNHK杯では、それを意識するあまり力みが見て取れました。しかし今回はそれがまったくなく、これまでのようにきれいなジャンプが復活したのです。回転が速いため軸がぶれることなく、これまでの滑りができていました」
演技を終えた羽生は、次のように言って20歳になったばかりの笑顔をみせた。
「優勝できたこともうれしいですが、それよりも自分の演技ができたことのほうがうれしい。存分に体を使える幸せを感じました。スケートができることが一番の幸せです」
ただ、課題もはっきりしている。体力面の充実を図る必要性だ。前出の渡部さんが指摘する。
「フリーの後半で2つのトリプルアクセルを成功させましたが、最後の3回転ルッツで転倒したのは、スタミナ不足で着氷が乱れたことに起因しています。ファイナルで優勝するまでに仕上げてきたのは立派ですが、まだ完璧ではありません。ということは、さらに伸びる要素があるということでもあります」
羽生は恐らく、どんなアクシデントに見舞われても、そのときどきの限界に挑戦し続けていくという意識が非常に強いのではないか。だからこそ、中国杯もNHK杯も棄権することなく挑んだのだ。
大きな挫折を糧にして、強いバネに変換する。そんな天才の素養を、羽生は備えている。
(ジャーナリスト・青柳雄介)