フィギュアスケート男子のエースとして長く活躍してきた高橋大輔(28)=関西大大学院=が10月14日、地元岡山県で引退を表明した。「正直、現役に未練がないわけではない……」と、競技生活への思いが残っていたことを示唆したが、どのような気持ちで現役生活にピリオドを打つことを決めたのか。そして、今後はどのような道に進むのだろうか。
フィギュアを始めたのは、小学校2年のとき。運動神経はよかったが、非凡なセンスがあったわけではなかった。最初の指導者で、倉敷FSC監督の佐々木美行さんはこう振り返る。
「でも、氷の上で鬼ごっこをするなど、毎日笑顔で心から練習を楽しんでいました。5年生になると頭角を現し、練習するたびにうまくなった。試合に出れば勝つ。連戦連勝でしたね」
中学2年で初の国際大会に出場、翌年には国体優勝を果たす。シニア大会に参戦してからは、世界選手権やGPファイナルで優勝。世界のトップスケーターとなり、人々を魅了してきた。「氷上のプリンス」と、女性ファンから圧倒的な人気を誇った。
輝かしい栄光の裏で、怪我による挫折も多く経験した。バンクーバー五輪前には右膝靱帯断裂の重傷を負ったものの、手術を経て復活。日本男子初のメダルを獲得した。今年のソチ五輪でも右脛骨骨挫傷を抱えながら、渾身の演技で6位に入った。3月の世界選手権を欠場し、今季は休養を宣言していた。
あるスポーツジャーナリストはこう語る。
「滑ることが何より好きな高橋選手は、本当は現役を続けたかったはず。必死に体のケアをし復帰を模索していたが、度重なる故障の影響は大きかった。挑み続けてきた4回転ジャンプや華麗なステップは見た目以上に過酷で、肉体が耐えられなくなってしまったのです。そこで、今年のシーズン開幕前に苦渋の決断をしたのでしょう」
注目のアスリートだけに、気になるのは今後の進路だ。「次に何をするか、まだ決めていません」と本人は言うが、期待されるのは指導者だ。
「しかし、いい意味で『俺が俺が』というタイプなので、後進の指導には向いていないかもしれません」(同前)
一方で、引退の本当の理由は別のところにある、との見方もある。
「スケート連盟から離れることで、自由になりたかったのではないでしょうか。連盟所属選手でいるといろいろなしがらみがあり、活動やギャラにも制約がありますから」(ある広告代理店社員)
その背景には、織田信成や安藤美姫など「元選手」のテレビでの活躍がある。今年の年末年始の番組を見据えてこのタイミングで引退、というわけである。では高橋も、メディアを次なるステージとするのか。ただ、織田とはキャラが違いすぎ、同じ路線に進むとは考えにくい。
「一説には、松岡修造さんのようなマルチなスポーツキャスターを目指している、とも言われています」(同前)
日本フィギュア史上最高のパフォーマーと称された高橋が、次はどんな「リンク」を舞台とするのか楽しみである。
(ジャーナリスト・青柳雄介)