「非常に腹立たしく感じて、だれか裁判を起こさないかなと思いました。そのとき、これ(特例法に基づく裁判)を使えばいいんじゃないって、ふと思い浮かんだんです」

 日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会委員でもある白井弁護士は、特例法施行後も提訴に踏み切るのに適切な案件が見つからず、制度を生かしきれていないジレンマがあることを知っていた。

 消費者機構日本の代表理事に特例法の活用を提案したところ、間もなく訴訟方針として採用され、自身も弁護団に加わることになった。白井弁護士は今回の判決の意義をこう語る。

「私立大学も受験の公平性を確保する義務があること、入試における女性差別という重大な問題が憲法の趣旨に反するとはっきり言ってもらえたことで、差別をなくす社会の実現を図るための積み重ねを一つ、着実に刻むことができたと思います」

 ただ、消費者被害回復裁判には限界もある。

 特例法は「労働契約を除く」と規定しているため、就職や雇用の場における女性差別の被害回復への活用は困難だ。また、迅速な被害回復を図る観点から、個人差のある慰謝料などは賠償の対象外とされている。今回認定された元受験生に支払われる賠償金も、4万~6万円の受験料などにとどまる。消費者機構日本の磯辺浩一専務理事はこう指摘する。

「属性に基づく得点調整は教育機関としてあるまじき行為。本来、受験生の慰謝料も請求したいのですが、消費者被害回復裁判では制度上できないのです」

 磯辺さんは特例法の「使いにくさ」は他にもあると指摘する。

「個別性が高いと使えないのに加え、事業者が賠償に対応できるかを考慮する必要もありますし、特例法の施行以前の契約は対象外です。消費者トラブルをめぐるさまざまな情報提供を受けても、訴訟に踏み切れないケースが多いのが実情です」

 消費者機構日本によると、特例法を活用した裁判は東京医大、順天堂大を相手取ったものと、「仮想通貨で誰でも確実に多額の利益を得られる」などとしてDVD等を販売していた業者らに対し、代金返還義務の確認を求めているものの計3件にとどまるという。「施行から4年目にしてようやく初判例が出たことは、制度上の課題や限界を示すものだ」(前出の小林さん)との指摘もある。(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年3月23日号より抜粋

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