だがそれも、昨年末からの高校から実業団までの駅伝や、他のロードレースでは好記録連発となっているように、厚底シューズの影響は大きい。選手や指導者たちも、それによってタイムが伸びていることを否定しない。
それは世界も同じで、現在の歴代世界トップリストベスト5は18~19年に出された記録だ。ただ、現在のべ93人が出している2時間4分台以内のパフォーマンスリストを見れば、18年以降は39人に止まっている。だが、スピードスケートで長野五輪があった1997~98年シーズンに、ブレードの踵部分が固定されないスラップスケートが本格的に使用されるようになった後、その使用技術が向上することで全種目の記録が飛躍的に伸びてきたのと同じように、厚底シューズで走る技術がさらに洗練されてくればもっと多くの選手が記録を伸ばしてくる可能性もある。その意味では日本の男子マラソンが過渡期であるように、世界もまだ過渡期ともいえる。それを考えれば、東京マラソンの好成果も手放しで喜んではいられない状況でもある。
そんな世界のマラソンの高速化に少しでも後れを取らないようにするためには、1万メートルの世界記録に日本記録が1分12秒16も離されているトラック長距離の記録を向上させてスピード不足を解消していくことが重要だろう。世界はケネニサ・ベケレ(エチオピア)の26分17秒53を筆頭に、93年からこれまでに26分台を64人が出している。それに対して日本記録は世界歴代リスト239位の27分29秒69と、1977年の世界記録レベルにとどまっているのだ。
日本記録は1億円という賞金や、東京五輪代表を決めるためのMGCというシステムが、選手たちの記録に挑む意識を変えたのは事実だ。今度はトラック長距離でも、そんな挑戦を誘発させるような状況を作り出すことが、東京五輪以降へ向けたマラソン強化のための急務ともいえる。(文・折山淑美)