林:今はふくよかで、それでもお美しいけど、歌手の方はああいうことができないかもね。

石川:そうはいかないという厳しさがありますね。お客さまは常に「今」なんですよ。それを求められてるような気がするので、役者さんとは違うなと思います。いい悪いじゃなくて、職種の違いを感じますね。

林:キーが変わることも許されないですか。

石川:いけないと思いますよ。イメージを変えてはいけないというのかな。と言いながらも、「津軽海峡・冬景色」は10代のときに歌った歌で、今もう62歳になっているわけですから、今まで私が歩んできた時間をちょっとだけ重ねたいなとは思いますよね。そこらへんのあんばいですね。

林:難しいですね。「天城越え」(86年)なんか、作家の目であの歌詞を読むと、こんな色っぽくて官能的な歌、よくあの時代に許されたなと思うぐらい、深紅のめくるめく世界じゃないですか。あのときおいくつだったんですか。

石川:28歳でしたけど、「歌えません」って言ったんです。「こんなの私の歌ではありません」って。でも、「好きに歌っちゃえば」って言われて、「そうか、この歌は演じればいいんだ」と思ったんですね。演じるおもしろさというのを、あの歌で知ったかなと思いますね。「ドラえもん」の「どこでもドア」と一緒で、どこにでも行けるし、何にでもなれる。「ウイスキーが、お好きでしょ」を歌っても、ぜんぜんへっちゃらだったし、椎名林檎さんとか奥田民生さんとご一緒しても平気だったし。

林:私、このあいだ有名人のど自慢大会みたいなのに出て、1200人の前で「天城越え」を歌いました。特別賞をいただきましたけど、まあ難しい歌でした。ブレスの音が入っちゃって、ブレスの音を消すのってすごく大変だなと思いました。

石川:うふふ。

林:あっ、レベルが違う話をすいません(笑)。きょう久しぶりに石川さんにお目にかかってお話をうかがったら、さらに達観したというか、悟られてもう一つ大きくなっていたような印象を受けました。

石川:なんにも悟ってなんかいないですよ。でも、いろんな出会いがあったし、いろんな歌を歌ったし、それが今日の私なんだなと思います。

林:これからも素晴らしい歌声を聴かせてくださいね。応援しています。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

【前編】『NHK大河「麒麟がくる」裏話 “門脇麦と雛祭り”石川さゆりが明かす』より続く

週刊朝日  2020年3月27日号より抜粋

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