MLBではライバルチームへのブーイングは珍しくなく、特に移籍した元主力選手の打席では「裏切者」扱いでブーイングが激しくなるケースもある。もっともこれは一種のお約束、風物詩と言ってもいいだろう。だがスキャンダルにまみれた選手へのブーイングは、それらとは間違いなく一線を画したものとなる。

 バリー・ボンズを思い出してほしい。ボンズは言わずと知れた、メジャー歴代最多の通算762本塁打を放った希代の強打者だ。だが彼を語る際に避けて通れないのが、薬物使用疑惑。2006年の開幕前にボンズが所属していたジャイアンツの地元紙『サンフランシスコ・クロニクル』の記者が暴露本を出版したことで、ボンズはどこに行ってもブーイングを浴びせられていた。薬物使用を揶揄したバナーを掲げるファンも少なくはなく、時には注射器がスタンドから投げ入れられるなど過熱気味でさえあった。

 この年の5月にボンズはベーブ・ルースに並ぶ通算714本塁打を放ったが、その時でさえブーイングはやまなかった。2007年にハンク・アーロンを抜く通算756号で歴代1位に立った際もグラウンドでこそセレモニーが行われていたが、全米のテレビ視聴率は惨憺たるものだったという。ファンはボンズへの関心を失うか、あえて無視することを選んだと思われる。

 アルトゥーベやアレックス・ブレグマン三塁手ら、2017年当時からアストロズの中軸だった打者たちもまた、ボンズと同様の扱いをしばらくは受けることになるだろうことは想像に難くない。だが彼らにとっての逆風は一過性のものに止まらないかもしれない。

 再びボンズを例に出すと、彼への評価は「史上最強の打者」と「薬物まみれの面汚し」という相反する見方が引退後の今も続いている。なにせメジャー歴代最多のホームラン王でありながら殿堂入り投票では苦戦が続き、いまだに殿堂入りを果たせていない。今年の投票でもこれまで最高の得票率(60.7%)を得たが、殿堂入りの条件である得票率75%にはまだまだ及ばず、資格喪失となる2022年までに殿堂入りができるかは難しい情勢となっている。

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アルトゥーベは“殿堂入りクラス”の成績を残しても…