「わっ、気持ちわる」
「コウガイビルや」
ぬめぬめ動いている。「ミミズやナメクジの天敵やけど、ミミズを食うたら害虫で、ナメクジを食うたら益虫やな」
「ハニャコはあかんわ。サブイボが出る」
二度と見たくないというから、火挟みでつまんでゴミ袋に捨てた。
コウガイビルの出現で、我が庭の“三大薄気味わるい虫”がそろった。一は池の底にいるイシビル。こいつはほんとうのヒルで体長は約四センチ、濃い茶色、網ですくうとシャクトリムシのように這(は)いまわるが、水の中ではヒラヒラと体をくねらせて速く泳ぐ。吸血はせず、金魚の餌のおこぼれを食っているらしい。
二はオナガウジ。蹲(つくばい)の中に枯れ葉やスズメの餌が落ちたりすると、夏はすぐに水が腐るから、そこにハナアブが卵を産み、孵化(ふか)してオナガウジになる。ウジの部分は約二センチで白っぽい半透明の中に消化管のような臓器が見える。尻尾(呼吸管)は長くて、五、六センチはあり、これを水面に出して呼吸をする。蹲に落ちた蛾(が)に群がっていたから肉食なのだろう。なにが気持ちわるいといって、このオナガウジほどサブイボの出るものはない。まさに“ウスキミワルキング”だ。
よめはんを呼んでオナガウジを見せたときは、「ね、ピヨコはこういうのが趣味なん?」「いや、いっしょに気持ちわるがって欲しいんや」「変態やね」「ヘンタイよいこ、です」
よめはんはプイと立ち去り、その日は口をきいてくれなかった。
※週刊朝日 2020年4月17日号