巨人で指揮をとったのは3年間と短かったが、高橋由伸監督も、18年に前年までほとんど出場機会のなかった岡本和真を開幕からスタメンで使い続け、和製大砲として開花させている。
ポジションが重なる村田修一の退団により、大きなチャンスを与えられた岡本は、オープン戦17試合で12球団トップの15打点と結果を出す。「ちゃんと働いてくれそうだ」と手応えを感じた高橋監督は、前年の4番・阿部を代打に回してまで岡本に一塁を守らせ、村田の退団劇も含めて新旧交代を一気に進めた。そして、この大英断は吉と出る。6月2日のオリックス戦から4番を任された岡本は、シーズン終了まで不動の4番を務め、打率3割9厘、33本塁打、100打点と文句なしの成績を残した。
この間、降格危機もあった。6月下旬から7月上旬にかけて岡本は32打席連続無安打 と不振を極める。「ノーヒットの岡本はどうするんですか?」と皮肉めいた質問も飛んだ。だが、高橋監督は「岡本は4番になったら絶対に逃げさせない」と我慢の采配に徹し、自力で“壁”を乗り越えるまで待ち続けた。不遇の2軍暮らしが長かった岡本も「1軍で打てないことを悩めるのは、僕にとっては楽しいこと」とプラス思考で突破口を開き、期待に応えた。
高橋監督自身も現役時代、松井のヤンキース移籍後の03年から4番を任されたが、清原和博や小久保裕紀らに押し出される形で、3番に回ることも多かった。心ならずも不動の4番になれなかった指揮官が「4番は逃げてはいけない」の信念を貫き、我慢の采配で不動の4番・岡本を育てる。これも野球の面白さである。(文・久保田龍雄)
●プロフィール久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。