4月6日、新型コロナウイルスの感染拡大の防止に向け、政府はPCR検査を増やす方針を発表した。だが、これまで極端に検査数を絞ったための弊害が、医療現場に影響を及ぼしている。AERA2020年4月27日号から。
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東京都内の女性開業医のところに、こんな患者が来たのはつい最近のことだった。
50代の男性で、X線検査で明らかな肺炎の所見があった。発熱があり、白血球の数値は上がっていなかった。
臨床所見から、新型コロナウイルスの感染者と考えて保健所に検査を依頼したが、断られた。理由はこうだ。
「軽症だからだめです」
医師と保健所の間で、それまでに何度もあったやり取りだ。またか。医師はしかたなく、男性にこう告げた。
「こちらではどうしようもないので、自己隔離してください」
しかし、男性は反発した。
「自己隔離とはなんだ!」
男性は独り暮らし。生活保護を受けており、食事を出前でまかなうにも、買い出しよりもお金がかかり負担になる。必要なら、診断して隔離の措置をしてほしい──。
要望が叶わず、男性の怒りはなかなか収まらなかった。
「当然です。『あなたはコロナかもしれないから、ちゃんと自分で隔離して』『外に出たらだめだから出前をとれ』と言われても、『わかりました』とはならないですよ」(女性開業医)
しかもこの日、男性は都内の大きな大学病院にも行く予定になっていた。もし彼が感染していたら、病院の来院者や医療従事者に感染が拡大しかねない。その危惧から、医師から頼み込んで、なんとか行くのをやめてもらった。
幸い男性の症状はその後、快方に向かったというが、医師には保健所への不信感が募る。
「検査はあくまで医師の診断を補助するものです。PCR検査ができないのなら、臨床症状で医師に確定診断をつけられるようにしてほしい。疑わしきはコロナと考えて隔離をしたうえ、食事など生活のフォローをして、他人にうつさせないようにするのが大切ではないでしょうか」