100年ぶりの“講談ブーム”の立役者であり、講談界の風雲児とも称される神田伯山さん。この2月に落語芸術協会の真打ちに昇進し、講談の大名跡である伯山の六代目を襲名しました。“絶滅危惧職”と自虐ギャグを飛ばすこともあった講談師を生きる36歳の素顔に、
作家の林真理子さんが迫ります。
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林:このたび、真打ち昇進で神田松之丞から六代目神田伯山になられたんですね。おめでとうございます。
伯山:ありがとうございます。
林:伯山さんは「今いちばんチケットが取りづらい講談師」と言われてますけど、これ、日本語おかしいと思うんですよ。だって、そもそもチケットが取りづらい講談師ってそんなにいないんだから、たとえば「今いちばんチケットが取りづらい人気者」とか、「今、神田伯山のチケットがいちばん取りづらい」とかじゃないと。
伯山:そこはもう、めんどくさいから放置してるんですよね(笑)。でもその文脈だと、「チケットが取りづらい」といっても、実力があるかどうかわからないじゃないですか。「チケットが取れない」事実という強みがあると、人気と実力を切り離せますし、便利ではあるんですよ。昔はそういう些細なことにイライラしたんですけど、あらがわないようにしてます、最近。
林:私、まさか講談からスターが出てくるとは思わなかったです。落語からスターが出てくるのは見ましたけど。
伯山:いちばん斜め上だったんでしょうね。落語家って数が多いんで、実力ある人いっぱいいるんです。講談も、上の人で僕より腕がある人いるんですけど、キャッチーさがあんまりなかったのかな。「落語家」って言われると「笑点」ってイメージが浮かぶんですけど、「講談師」って言っても、「なんだそれ?」って感じで、イメージがゼロなんですよ。ゼロの感じがよかったのかもしれないですね。
林:バブルのころ、リクルート社をつくった大金持ちの江副浩正さんという方が、「講談がすたれちゃいけない」と言って、講談師の方を何人か築地の高級料亭にお招きして、何席かやっていただいたんです。私も形だけの会費を払って聴かせていただいたんですけど、神田陽子さんの師匠がいらっしゃって……。
伯山:二代目神田山陽ですね。