自由に、悠々と、カッコよく。ずっと変わらぬ輝きを放つ桃井かおりさん。映画「一度も撃ってません」では盟友・石橋蓮司さんの18年ぶりの主演を支えている。ずばり核心をつきつつユーモア満載の小気味いい「桃井節」を、たっぷりお楽しみください。
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「阪本さん(順治監督)にいっとう最初にお願いしたのはね、『ちゃんと“老け”を撮ってくださいね』ってことですよ。長生きって、老けるって、こんなにおもしろいんだぞ、ほうら、うらやましいだろう!って。そうしないとこんなに老けた人間ばっかり出る映画、作る必要ないじゃない? そしたら監督、ほんとに照明を当てなかった。『そういう意味じゃないんだって阪本ちゃん!』って感じだったけどね(笑)」
映画「一度も撃ってません」は、いわば桃井さんが言い出しっぺになり完成した、最高のハードボイルド・コメディーだ。石橋さん演じる主人公は御年74の伝説のヒットマン。だが、実は一度も拳銃を撃ったことがない。
「阪本さんは原田芳雄の最期に『大鹿村騒動記』を撮ってくれた。それが私たちにはありがたくて。だから今回は『蓮司が元気なうちに撮ってくださいよ』ってお願いしたの。これだけの俳優を集められるのは蓮司と阪本さんの“男気”がなせる業です」
妻役の大楠道代さん、友人役の岸部一徳さんをはじめ豪華キャストが集結。同時代を生きた俳優たちによる「あ・うん」の呼吸と掛け合いは、オトナたちのさめやらぬ宴、ともいうべきたのしさに満ちている。
「大好きなこのメンバーとだったら、ほかの人とでは写らないものが写るはずだ、って思ったんです。芸を超えるっていうのかな。脳が反応する前に体がなにかしら表現するんじゃないか、何でもないものがポン!と写らないかなと」
実際、そうなった。一番好きなのは、4人が宵の繁華街をゆらゆらと歩いて帰るシーンだという。
「台本には『歌を歌いながら歩く』って書いてあったんだけど、まず道代さんが『え? あたしたち歌わなきゃならないの?』って。そしたら蓮司も『そうだよな、なめてるよな俳優を。俺たちが歩きゃ、それだけで何か写るだろ! それを撮れよ!』って(笑)。実際この映画にはそこにある“ムード”が写ったと思う」