歴史の表舞台には登場しない、庶民の女性たちの生活も興味深い。行商人として、夫とは別々に財産を築き、離婚の際も自分の財産を持って家を出ることができた人も。さらに、女性が旅先の寺で一夜限りの恋を楽しむ……といった、自由な恋愛観もあった。
「中世は儒教的な観念が浸透しておらず、女性の自由さがまだ圧縮されていない面もありました。高度経済成長期以降の専業主婦のイメージは、日本の長い歴史から見ればむしろ例外的なんです」
良くも悪くも人間くさく、活気のある中世日本。しかし、当時の人を野蛮な人々と見るのはナンセンスだ。それは、我々が歴史を学ぶ上での、基本的な姿勢にも通じている。
「彼らには彼らなりの合理性がありました。現代人が、当時と比べてどれほど賢くなったかと言えば、それほど変わらない。例えば、噂に右往左往したりする姿は、当時も今も同じです。彼らの生きる上での悩みは、現代にも通じているのです」
(ライター・市岡ひかり)
■リブロの野上由人さんオススメの一冊
フィルターバブルの外に出て、多様な情報への自由なアクセスを可能にするインターネット本来の価値を取り戻そう。リブロの野上由人さんは『遅いインターネット』(宇野常寛著)の魅力を次のように寄せる。
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スローフード、スローライフ、スロージャーナリズム。人と社会の豊かさを再定義するさまざまな運動。今度は「スローな批評」だ。SNS中心の情報環境から自らを切り離し、よく「考える」ことを促す。
フィルターバブルの外に出て、多様な情報への自由なアクセスを可能にするインターネット本来の価値を取り戻そう。安易な「いいね」を拒否し、新たな問いの設定を求める。
その実践として、既に著者は「遅いインターネット」という名のウェブマガジンを始めている。そこに、脊髄反射的に書き込めるコメント欄はない。代わりに、「書く」力を共有する学習コミュニティーを作った。
「書く」と「読む」の往復運動が情報環境の質を変える。多分に啓蒙的なプロジェクトだ。この本の先に広がる世界が早く見たいと急ぐ読者には向かない。
※AERA 2020年5月4日-11日号