唾液取得カップ=豊嶋教授提供
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 綿棒でのどからぬぐい液を採取するPCR検査は、採取するときにせきやくしゃみなどが出やすく、医療者の飛沫(ひまつ)感染が問題視されていた。そんな医療従事者の感染リスクを減らす、「唾液(だえき)を使ったPCR検査」に期待が寄せられている。

 米国の一部の州では、すでにドライブスルー方式によるPCR検査で、唾液を使い始めているというこの手法。いったいどういう検査手法なのだろうか。

「検査を受ける人に専用の容器の中にツバを吐いてもらうだけです」

 と話すのは、唾液PCR検査の導入を検討する北海道大学病院血液内科・検査輸血部の豊嶋(てしま)崇徳教授だ。

「これまでの研究論文を読むと、どうやら新型コロナウイルスは、最初に口腔(こうくう)内で感染して、そこから気道、肺に移動していくようなのです。咳症状などが出ない無症候性感染者がいたり、感染の初期で味覚がなくなったりするのは、そのためだと考えられます」

 豊嶋教授によると、口腔内、特に舌にはウイルスを細胞内に取り込むACE受容体が数多く存在しているという。実際、米・エール大学は、ぬぐい液より唾液のほうがウイルス量が多かったとする研究結果を発表している。

 唾液PCR検査は手法こそ変わるものの、従来のキットをそのまま使うことができる。同大では現在、感染者の協力を得て、ぬぐい液と唾液の検査結果の一致率を調べている。この結果が良好であれば、院内感染を防ぐ目的で、手術や内視鏡検査などを受ける患者に唾液PCR検査を始める予定だ。

「今後、PCR検査をより多くの人に実施していく必要があります。ぬぐい液による検査を拡大するには、専門の人材確保や、すでに不足している防護具が大量に必要になり、採取者には感染の危険性があります。唾液なら患者さん自身で容器にツバをとってもらうだけなので、安全、迅速に検査をすることが可能です」(豊嶋教授)

 このほか、日本でも導入が検討されているドライブスルー方式のPCR検査で、米国のように唾液を用いる方法をとることもできる。

 この唾液PCR検査について、感染症の検査法に詳しい長崎大学病院検査部の栁原克紀教授も「期待している」と前向きだ。

「ドライブスルー方式でなくても、患者さんに電話ボックスのような採取室に入ってもらい、自身で専用の容器にツバを吐いてもらえばいい。採取者はそれを受け取るだけでいいので、感染リスクは下げられます」

 一方で、単なる唾液ではなく、ゴホゴホと咳をした後の唾液でなければ有効ではないという論文や、鼻腔ぬぐい液に比べてやや感度(陽性率)が落ちる可能性があるなど、検討は必要だという。

 PCR検査の検査数が諸外国に比べて少ないのは、採取するスタッフの人手不足などがあるとの指摘もある。唾液PCR検査なら、この問題を解決できるかもしれない。(本誌・山内リカ)

※週刊朝日オンライン限定記事