保存療法か手術か──。二者択一だった腰椎椎間板ヘルニア治療に新たな手法が登場した。飛び出したヘルニアを薬で縮小させる「椎間板内酵素注入療法」だ。どんな治療なのか、ヘルニア治療の最新の考え方とともに紹介する。
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腰椎椎間板ヘルニア(以下、ヘルニア)は、背骨と背骨の間にあって、クッションの役目を果たす椎間板が飛び出た状態をいう。姿勢の悪さやスポーツなどが誘因とされ、ヘルニアが神経を圧迫すると腰痛や下肢痛、しびれなどが現れる。
長年、保存療法と手術の二者択一だったところに、新しい治療が加わった。ヘルニコア(コンドリアーゼ)という薬剤でヘルニアを縮小させる「椎間板内酵素注入療法」で、2018年8月に保険適用となった。この治療に詳しい慶応義塾大学医学部整形外科の岡田英次朗医師が解説する。
椎間板はまんじゅうのような構造で、皮にあたるコラーゲン線維を線維輪、なかの“あん”にあたるゼリー状の組織を髄核という。
「ヘルニコアは、髄核の主成分であるグリコサミノグリカンの水分保持能力を低下させる酵素です。髄核の水分が減って縮むことで、椎間板の圧が下がり、ヘルニアが小さくなることで、神経の圧迫が改善します」(岡田医師)
治療はX線で患部を見ながら進めていく。慶応義塾大学病院の場合は次の通り。
まず、患者はX線を撮影できる部屋(透視室)に自ら歩いていき、検査台で横になる。局所麻酔をした後、X線で確認しながら注射器の針先を椎間板に刺し、薬剤1ccを注入。針を抜いて絆創膏を貼れば、治療は終了、となる。
患者やヘルニアの状態によって異なるが、治療時間は30~60分。3時間ほど安静にしたら、歩いても大丈夫になる。副作用などの確認のため1泊の入院が必要だが、退院の翌日には職場復帰も可能だ。
■有効性は7割程度で治療は1回限り
有効性については、治験では投与後13週で約72%、52週で約79%と、時間が経つほど症状が改善されることが報告されている。