■ランキングの読み方と病院選び
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では手術数を掲載している。その見方について、岡本医師は言う。
「手術に慣れた専門医が担当すれば合併症のリスクは低いと思われます。ただし、甲状腺がんの専門医の数はそれほど多くはないことも知っておいたほうがよいでしょう」
また、全摘と葉切除の手術数のバランスにも、病院ごとの特徴があらわれる。前述のとおり、中リスクの場合、全摘にするか葉切除にするか、判断が分かれる場合があるからだ。
「ガイドラインで全摘が推奨されているのは高リスクのほか、中リスクの一部です。この中リスクをどちらで対応するかが、病院の特徴としてあらわれてくると思われます」(岡本医師)
一方、岩崎医師は手術数などをこう見ている。
「全摘や放射性ヨウ素内用療法の数が多い場合は、その病院がより重症の患者さんを多く受け入れていることを表しています。甲状腺がんを積極的に治療している病院といえるでしょう」
放射性ヨウ素内用療法を受けた患者は、周囲の人への被爆を考慮し、安全な放射線量になるまで、専用の治療室に入院する必要がある。自院にこの病室をもつ病院は限られ、多くは他院に依頼している。少量の放射性ヨウ素を外来で服用するケースもある。本誌掲載の放射性ヨウ素内用療法の数は、これらの入院と通院を合わせた数である。
また、岩崎医師は重症例に対する手術の仕方は病院によって違いが出るという。
「重症の患者さんの場合、がんがのどや頸動脈、気管、さらには食道にまで広がっているケースもみられます。これをどこまでとるか。胸まで大きく切開してでも、がんを完全に切除しようとする病院から、通常の切開で一部をとり、再発したら再手術という病院まで、さまざまなのです」
このため、進行がんや再発がんの治療には、全摘の症例数を目安に病院を選ぶ、という方法もあり得る。
一方、全摘後は、甲状腺ホルモン剤を生涯服用し続けることになる。
「ホルモン剤は安価な薬であり、とくに副作用もありません。服用し続けたとしても、患者さんにとって何のハンディもないといえます」
岩崎医師はこのように話し、長期にわたってホルモン剤を処方してもらうことを踏まえた病院選びをすすめる。
「ホルモン剤を処方してもらうための通院を考えれば、通いやすい地元の病院を選んだほうがよいでしょう。甲状腺がんの手術も同じ病院で受ければ、一貫した治療を受けることが可能になります」
(文/近藤昭彦)
≪取材した医師≫
東京女子医科大学病院 乳腺・内分泌外科 教授 岡本高宏 医師
神奈川県立がんセンター 乳腺内分泌外科部長 岩崎博幸 医師
※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より