東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センター・センター長で主任教授の針谷正祥医師
東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センター・センター長で主任教授の針谷正祥医師

 シルクロード病とも言われるベーチェット病は、シルクロードに沿った地中海沿岸東部諸国、中近東、中央アジア、東アジア、日本に患者の多くが見られる、免疫の異常によって発症する「膠原(こうげん)病」の一種だ。生死に関わることは少ないが、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させる病気で、厚生労働省から指定難病に指定されている。ベーチェット病の概要について専門医に聞いた。

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 ベーチェット病は、日本には約2万人の患者がいて、男女比はほぼ1対1だ。有名人ではEXILEの松本利夫(MATSU)さんがこの病気で、左目の視力をほとんど失っている。日本での地域分布には偏りがあり、北に多く、北海道で最も高頻度に発症する。

 東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センター・センター長で主任教授の針谷正祥医師は、ベーチェット病の病態についてこう説明する。

「白血球のなかの好中球という細胞の働きが亢進することによって炎症が起こりやすくなる病気で、その背景には免疫異常や血管の炎症などが存在します。発症地域に隔たりがある明確な理由はわかっていませんが、遺伝因子や病原微生物などの環境因子が関わっているであろうことは示唆されています」

 主な症状は、皮膚や眼に現れる。口のなかの粘膜に繰り返し発症するアフタ性潰瘍、にきびや毛のう炎などの皮膚の症状、ぶどう膜炎などの眼の症状、外陰部の潰瘍などだ。

 副症状としては、関節炎、副睾丸(こうがん)炎、小腸と大腸の境目である回盲部の潰瘍などの消化器病変、血管病変、そして、脳の脳幹、基底部周辺、小脳に発症する中等度以上の中枢神経病変がある。関節症状では、関節リウマチと誤認されることもある。

「口のアフタ性潰瘍はほぼ必発ですが、これらの症状が組み合わさって、いろいろな順序で発症することから診断がつきます」(針谷医師)

 確定診断のための検査は血液検査だ。白血球数、炎症反応の指標を測るCRP、赤沈(赤血球沈降速度)などにより炎症の程度を測定する。

「近年では、HLA-B51という遺伝子の型がベーチェット病と関係があることがわかってきています。この型は、日本人全体で15%が陽性ところ、ベーチェット病患者では約60%が陽性となります」

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たかが口内炎と思うなかれ