幻想的な光で"獲物"をおびき寄せる漁師たち。視線の先には6センチにも満たない透明な稚魚の姿。その正体とは竏秩\竏秩B
 流域面積が四国全体の20%以上を占める大河・吉野川。この時期、徳島県の河口付近では、一風変わった情景を見ることができる。12月中旬から4月末まで、ウナギの稚魚であるシラスウナギの漁が解禁されるからだ。
 日没後の18時過ぎから、船頭にランプをつけた小型漁船が次々と現れ、川底を照らしながら巡航を始める。多いときは、100隻以上にもなり、闇夜の吉野川は幻想的な雰囲気に包まれる。漁船には1、2人の漁師が乗船し、網でシラスウナギをすくい上げようと川面を狙う。
 だが、シラスウナギは数年前から不漁が続いており、漁師たちの釣果は少ない。そのため、相場も高騰している。
 徳島県のシラスウナギ漁を管理する漁業関係者の一人は現況をこう話す。
「3年前まで1キロあたり40万円程度で取引されていたが、昨年は70万~80万円、今年は180万円以上になっています。1晩で200グラム以上とる漁師がいる一方で、「船の燃料代にもならない」と漁に出ない人も多くなっています」
 なぜ、ここまで稚魚の数が減ったのか。東京大学・海洋研究所教授の塚本勝巳氏はこう分析する。
「原因は三つあると思います。まず、乱獲の問題。稚魚に限らず親ウナギまで乱獲されており、ウナギの数自体が減ってしまっています。二つ目は、河川環境の悪化です。河川の改修工事などで川が整備され過ぎると、ウナギやその餌生物には成育しにくい環境になります。三つ目は海洋環境の変動です。マリアナ諸島付近と考えられる産卵場の位置が、近年100キロほど南下したようです。そのため、北赤道海流と黒潮に乗って北上してくるはずの稚魚が、一部南下してフィリピン方面へ流れてしまっている可能性が高いのです」
 シラスウナギは「白いダイヤ」とも呼ばれる。ウナギが手の届かない高級品になる前に、私たちは、その価値をもっとかみしめるべきなのかもしれない。

※週刊朝日

 2012年4月20日号