作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、新型コロナウイルス感染拡大で気づいた「性差別」について。北原氏は、多くの職場の隅々に性差別が行き渡っていると訴える。
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「今、この建物、女性しかいなくないですか……?」
ホラーな感じだが、今、大都市のあちこちで起きている現象かもしれない。
先日、友だちがこんな話をしてくれた。彼女の職場は正社員のほぼ全員がテレワークだが、かかってくる電話の応対や、紙を使用する仕事など、組織を回す仕事に一部のスタッフがリアル出社している。そしてそのほとんどが、非正規雇用の女性なのだという。彼女自身が週3回出社する契約社員だ。
広い社内、普段は男女半々の組織だと思っていた。けれど緊急事態宣言以降、廊下ですれ違う顔の多くが女性か男性警備員という世界になった。シーンとした室内で仕事をしているとき、普段フェミな話など全く興味を示さない女性が「何なのこの状況!?」という感じで話したのが冒頭の言葉だ。
またこれは別の非正規雇用の友人の話。その会社は非正規・正規の区別なくほぼ全員がテレワークだが、もちまわりでリアル出社するのは、独身女性が多いという。「軽い用事を頼みやすいのだと思う」と彼女は言った。
2018年、東京医科大学の入試差別問題が発覚した。その理由は「女性は妊娠・出産等で男性医師とは同じように働けない」と語られた。盗人猛々しい……とあきれる思いだったが、驚いたのは、そもそも2016年に厚生労働省による「医療従事者の需給に関する検討会」で、30~50代の男性医師の仕事量を「1」とした場合、女性医師を「0.8」として計算していたことだった(ちなみに60代以上の男性医師も0.8だった)。なんと国の上の方で、女性の労働力を低く見積もっていたのだ。残念なのはこの数字に対し、7割超の医師が「妥当」と考えていたことだ(医療関係者のためのメディアm3.comの2017年調査参照)。それが現場のリアルな感覚なのかもしれないが、私の友人の産婦人科医師は、「女は男の3倍働かないと認めてもらえない」と嘆いていた。