欲しくもないマスク、遅きに失する1人10万円の支給。新型コロナ対策の財政支出は誰がどう返すのか。政府が新たに専門家委員会に加えた顔ぶれから、「つけ回し先」が見えてきた。財源の“穴埋め”として増税の可能性が出てきたのだ。痛みを負うのは、会社員だ。AERA 2020年6月1日号では、コロナ対策の財源について取材した。
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東日本大震災の時は、被災者を全国民が応援するという構図が描きやすかった。だがコロナ禍では、国民全員が被害者だ。困窮した人にまで課税して、困窮に輪をかける選択をする? そんなわけが……。
実は、十分にあり得る。政府が5月12日、新型コロナ対策の専門家会議「基本的対処方針等諮問委員会」のメンバーに、大竹文雄大阪大学大学院教授、小林慶一郎東京財団政策研究所研究主幹、竹森俊平慶応義塾大学教授、井深陽子慶応義塾大学教授が合流すると発表したのだ。“経済専門家の視点”を加えるというが、実は増税と財政再建を最重視する顔ぶれがずらりとそろう。
大竹氏は震災復興増税の提言者の一人。政府が消費税率アップに際して低所得者の相対的な負担が増す「逆進性」対策に苦慮する中、消費税に逆進性はないとの説を提唱したこともあり、積極増税派と目される。小林氏は経済産業省出身。現在も経産省系の経済産業研究所(経産研)特別研究員の肩書を持ち、財政再建論者として知られる。竹森氏は昨年1月から首相直属の経済財政諮問会議の議員を務め、経産研にも籍を置いていた。井深氏の専門は医療経済学。
財政再建を最重視する学者たちがこぞって増税を急げば、結果的に景気の立ち直りは遅れる。
「景気を刺激すれば税収は増え、景気を冷やせば税収は減るのが経験則です」(税理士の西原憲一さん)
西原さんは政府がコロナ収束後に会社員が一部のツケを支払うような、安易な増税に走ることを警戒している。
「今年は年収850万円超の独身や子供なし世帯について、給与所得控除額を195万円の頭打ちにすることで実質増税に。震災復興税と同じように所得税と住民税に上乗せした“コロナ復興税”を導入すれば、この層の負担感が最も重くなります。自営業者と違って会社員は節税対策などほぼ不可能です」