だが、自民、公明両党の検討チームが教員確保や就職時期のズレによる労働力不足などデメリットが大きいと指摘し、反対を表明すると、暗礁に乗り上げてしまったのだ。元文科官僚で教育問題に詳しい寺脇研氏は、こう指摘する。

「だいたい、賛成してるのは、現場を知らない知事や政治家ばかりですよ。全国市長会と全国町村会では、いずれも『慎重・反対』が8割を占めた、と表明しているでしょう。結局、コロナで混乱する学校現場を知っている首長たちは、『そんなことやっている場合じゃない』とよくわかっているんですよ」

 私学の多くが、9月入学論に慎重な姿勢を見せているが、前出の自民党幹部がこう話す。

「私学はそもそも自民党の大切な票田ですよ。それに党を支援してくれている塾業界も今回の9月入学論には大反対を唱えている。そんな状況でやれませんよ」

 寺脇氏は、いまやるべきことは、児童や生徒の学習の遅れを取り戻せるよう、全力を注ぐことだと話す。

「目の前で起きている問題を放っておいて、9月入学で解決するから待て、なんていうのはまさに荘子の『轍鮒(てっぷ)の急(きゅう)』(危急が目前に迫る例え)です。コロナウイルスの感染は天災だが、学校現場への対応の遅れが及ぼす影響は、人災だと思っています」(寺脇氏)

(本誌・永井貴子、今西憲之)

週刊朝日  2020年6月12日号

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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