白人警官がアフリカ系米国人男性を死なせた事件に端を発した抗議活動。全米へと広がり、トランプ大統領のおひざ元・ニューヨーク(NY)でも連日デモが続く。コロナ感染が収束していないにもかかわらず、なぜ市民は”三密”となるデモに参加するのか。現地在住のジャーナリストが抗議現場の状況を探った。
「私は怒りもし、悲しみもした。でもそれは神の御心だったと、今になってようやく気づいた」
米中西部ミネソタ州で死亡したジョージ・フロイドさんの弟でNY市在住のテレンスさんは4日、市内の公園で行われた追悼集会に集まった数千人を前に語った。涙で声を詰まらせるテレンスさんに、参加者たちからは「あなたは一人ではない」とのかけ声が会場にこだました。NY市では「自宅待機令」が完全に解除されていないが、集会にはデブラシオNY市長自ら参加し、抗議活動の重要性を印象づけた。
警察による黒人差別は今に始まったことではない。ではなぜ、コロナ感染の懸念があるなか、NY市民はデモに参加するのか? それには感染被害の問題も大きくかかわっている。
5月20日にあったクオモNY州知事の会見では、抗体検査による陽性率の平均がNY市全体で19・9%であるのに対し、低所得者地域は27%だった。とくに、日常生活に必要とされるスーパーや、デリバリー、病院の清掃業などに従事するアフリカ系やヒスパニック系米国人の多く住む一部地域では40%を超えるなど、人種間で大きな格差があることが明らかになった。
さらに、ソーシャル・ディスタンスやマスク着用を怠る市民を警察が取り締まる際、その対応が人種によって異なることも問題になっていた。街角で話をしていたアフリカ系米国人の男女が、ソーシャル・ディスタンスを守らなかったと主張する警察官に、地面にたたきつけられて逮捕された。同じくアフリカ系米国人の女性が、地下鉄構内でマスクを外してあごにかけていたところ、着用を促した警官と口論に発展。女性は5歳になる息子の目の前で、警官6人に取り押さえられ逮捕された。これらの状況はビデオに撮影されてSNSで拡散され、多くの市民が知ることとなった。