「まず持続的に歩くことで脂肪が燃焼し脳血管疾患のもとである生活習慣病を防ぎます。また、全身の隅々まで張り巡らされた毛細血管が増えることが分かっています。毛細血管が増えれば血流がよくなり、血流とともに酸素が全身に行き渡るようになるので、血管の柔軟性や弾力性がよみがえり、冷えやむくみの解消にもつながります。さらに酸素の供給量が増加すると、心肺機能などもアップし、疲れにくい体になります」(久野さん)
毛細血管はなにも運動していない人の場合、1個の筋細胞に2~3個くらいしかついていないが、ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行うことで、倍くらいに増やすことができる。ただし、毛細血管は体を動かさないでいると、すぐに消滅してしまう。自粛生活のあと、久しぶりに駅の階段を上がったら息切れした──。そんな人は、毛細血管が減少した可能性がある。取り戻すには2週間ほど継続してウォーキングなどを続ける必要があるという。
では実際、どのくらい歩けばいいのか。久野さんは言う。
「さまざまなエビデンスから1日8千歩が目安とされています」
1日8千歩、1週間で5万6千歩──。そう聞くとハードルが高く感じるが、細切れに行っても効果は変わらないという。
ひと駅前で降りたり、ちょっと遠くのスーパーへ行ったり、エスカレーターの代わりに階段を使ったり……。久野さんはこれを「チリツモ作戦」と名づけ推奨している。通勤に使っていた時間を、散歩にあてるのもいいし、リモートワークの気分転換にマンションや自宅の階段を往復するのもいいだろう。そして毎日8千歩である必要もなく、「歩きだめ」もOKだ。「1週間のトータルで5万6千歩を目標にしましょう」(同)
ウォーキングは、「量」と「質」のバランスが大事というのは、東京都健康長寿医療センター研究所運動科学研究室長の青柳(あおやぎ)幸利さんだ。量は歩数、質は強度だ。
青柳さんは、2000年から、生まれ故郷の群馬県中之条町に住む65歳以上の全住民5千人を対象に、24時間365日の身体活動と病気予防の関係の調査を続けている。「中之条研究」と呼ばれる有名な研究だ。