現役時代の広島・佐々岡真司 (c)朝日新聞社
現役時代の広島・佐々岡真司 (c)朝日新聞社
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 新型コロナウイルス拡大の影響で開幕が遅れたが、ようやく6月19日にシーズンがスタートする。開幕が間近に迫り、今季の展望に想像を膨らませるファンも多いと思うが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、過去のプロ野球シーズンの“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「痛い思いが報われました編」だ。

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 死球に怒った助っ人にボコボコに殴られた投手が満身創痍の痛みをこらえて続投し、チーム一丸のアシストで見事白星を手にする感動シーンが見られたのが、1994年4月13日のヤクルトvs広島(広島)だ。

 先発・佐々岡真司が3回までハウエルの一発のみの1失点に抑え、3対1とリードした広島だったが、4回2死から池山隆寛に右前安打を許したあと、次打者・クラークへの初球が右手中指を直撃。これが“惨事”の引き金となった。

 怒り狂った192センチ、93キロの巨漢がマウンドに突進する。佐々岡につかみかかったクラークは、勢いに任せて投げ飛ばすと、後頭部から地面にたたきつけられた佐々岡の鼻と左目の間にポカポカと数発のパンチを浴びせた。

 救出されたときには、ユニホームに大量の鼻血が付着し、後頭部、首、背中も強打。左目も真っ赤に充血するという惨状。「(数発殴られた)あとは覚えていません」と意識も朦朧とした状態だった。

 しかし、三村敏之監督は「(勝利投手の権利を得る)5回までは何とか投げきれ」と熱く激励。10分間の治療を経て、佐々岡は再びマウンドに立った。まだ頭がクラクラして、球道も満足に定まらない状態のなか、2死一、二塁から桜井伸一のタイムリーで1点を返されたが、「とにかく気合を入れて投げました」。正田耕三の追加点を阻止する美技にも助けられ、5回まで4安打2失点で投げ切った。

 そんな傷だらけのエースの執念の力投に赤ヘル戦士たちも燃えに燃えた。4回に「佐々岡があんなことになったので、何とか追加点が欲しかった」という野村謙二郎の2ランで5対2とリードを広げると、5回には「ハプニングがあったので、倍にして返したかった」という小早川毅彦の2ランなどで一挙4点とダメを押した。

 チーム一丸の強力援護でシーズン初勝利を挙げた佐々岡は「みんなが僕のためにと言ってくれた。この1勝は大きいです」と感無量だった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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