姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
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経産省から持続化給付金の事務を委託された「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」のオフィス内 (c)朝日新聞社
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 実体経済が傷み、生存経済が破綻し、それが金融崩壊にまで悪化の一途を辿るとすれば、最後の防波堤は国家以外にはありえません。それは、90年ほど前の世界恐慌の後の「大転換」を見れば明らかです。資本主義の総本山の米国が、いわゆるニューディール政策のもと、国家が手を差し伸べて有効需要創出の原動力になることで、未曽有の危機を脱しました。それは今から見れば、「国家資本主義」と呼ばれても不思議ではありません。市場(マーケット)が混乱の元凶になっているとすれば、残る選択肢は国家の出番しかなかったのです。

 ナチス・ドイツをはじめ、日伊両国も、またスターリンの旧ソ連も、国家に経済再建と秩序の回復を求めた点では共通していました。違っていたのは、米国は全体主義に走る国家の暴走を掣肘(せいちゅう)する安全装置を社会の中にしっかりと装填(そうてん)し、言論の自由や活発な公共的空間での論争の余地を曲がりなりにも保障していたということです。

 当時の米国といえども、国家による「ヘリコプター・マネー」が散布され、また政府が発注する事業に群がる民間企業が後を絶たない以上、官製談合的な癒着や「政権の取り巻きの特別扱い(クローニズム)」がなかったわけではないでしょう。それでも、透明性と公開性を求める世論やメディア、議会の圧力は効いていたはずです。そこには、フランクリン・ルーズベルトの政治指導者としてのカリスマ的な資質とそれに対する国民の信頼も大きな役割を果たしていたはずです。

 現在の持続化給付金をめぐる官製談合的な癒着の構造への疑念や、「GoToキャンペーン」をめぐる法外な事務委託費、さらに第2次補正予算案に計上されている空前の予備費など、国の財政は「打ち出の小槌」のように、クローニー(縁故)資本主義の「餌食」にされていないかどうか──。

 これがゲスの勘ぐりだとするならば、徹底して情報を開示し、しっかりとした説明を議会の場でやってもらいたいと多くの国民が望んでいるはずです。そうでなければ、事実上「社会主義」が看板だけの中国の「国家資本主義」を嗤(わら)えないのではないでしょうか。

AERA 2020年6月22日号