課題もある。同社は2017年には400人前後だった従業員が現在、1800人と急成長を遂げている。社内では「Go Bold 大胆にやろう」「All for One 全ては成功のために」「Be a Pro プロフェッショナルであれ」という三つのバリュー(行動指針)を重視。採用や人事評価もこのバリューを基準にしている。ただ、コロナ感染が拡大して以降、一度も直接顔を合わせることなくフルリモートで採用され、オンラインで研修を受ける社員もいる。

「バリューが社員に浸透していることが、メルカリの強さ。リモート環境で、いかにバリューを体現してもらえるのかがこれからの課題です」(河野さん)

 メルカリらしい新しい働き方への挑戦も始まった。

 毎週金曜日に実施する、グループ会社「メルペイ」の社員全体会議。平時はオフィスで行われていたが、在宅になってテレビ会議に切り替わっている。

「今週はこんな目標達成がありました」。ある社員がそう報告すると、同時に、スラックの画面上には、社員から次々に「拍手」の絵文字が送られた。また、CEOの青柳直樹さんが話し始めると、スラック上には「今の話はどういうことですか?」との質問が飛んだり、「この資料が役に立ちます」とURLを貼る人が現れたり。活発な「議論」が起きていた。

「リアルにやっていた時よりも、気軽に発言、発信でき、圧倒的に会議で得られる情報量が増えました。僕自身も『会議は実際に会って開いた方がいい』という思い込みがあったのだと思います。うれしい気付きでしたね」。メルペイCBOの山本真人さん(40)は、そう目を輝かせて話す。

 全体会議では、画面上に突然、青柳さんの2人の子どもが「乱入」することもあった。青柳さんは苦笑しながら「今、お父さん、社員のみんなに話しているから」。決して子どもをたしなめたりはしない。

「仕事だけでなく、子どもや生活を大事にしていい。当たり前ですが、そういう雰囲気は伝播します。在宅勤務では、どうしても個人の場所を侵食せざるを得ない。相手の状況を受け入れる雰囲気にならないと、定着しないと思います」(山本さん)

 メルカリでは6月末以降、コロナの感染状況を注視しながら、オフィスと在宅とを組み合わせた、新しい働き方を模索する。出勤回数も働く場所も「『決めきらない』ということを決めている。やってみてカルチャーやバリューに悪影響ならまた考えればいい」(河野さん)。「働き方実験」を続けながら、その時々に合ったスタイルを柔軟に選び取っていく。(ライター・市岡ひかり

AERA 2020年6月22日号より抜粋

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