2月以降、日ごとに状況が変化した新型コロナウイルスの感染拡大。企業は時差出勤やテレワークへの待ったなしの移行を迫られた。思い込みの枠を壊し、新しい働き方の実験に踏み出せるか。AERA 2020年6月22日号ではメルカリの3カ月を取材した。
* * *
「今期のストレッチゴール(目標)は、達成しなくていい。まずは自分や家族の命を守ることを優先してほしい」
メルカリの従業員が、経営陣からこんなメッセージを受け取ったのは、「原則在宅勤務」が始まった2月19日の直後のことだ。ニュースで連日、ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染が伝えられ、社会全体に不安が漂っていたころだ。
高いチームワークを武器に急成長を遂げてきた同社では、社内のコミュニケーションを重視するため、在宅勤務を含め、オフィス外でのテレワークは元々“非推奨”だった。ITインフラが整っている企業とはいえ、決して簡単な決断ではなかったはずだ。
メルカリの執行役員VP of Strategyの河野秀治さん(38)は「災害などを想定したBCP(事業継続計画)はありましたが、感染症は想定していなかった。ただ、従業員の安全を最優先にすることと、どの会議で方針を決めるのか、といったことは事前に決まっていたので、それほど難しい決断ではありませんでした」と振り返る。
「もう元のワークスタイルには戻らない」──。経営陣は、さらに社員にそうメッセージを発信した。「テレワークよりも会社で会った方が効率はいい」という、経営陣にさえあった“思い込みの枠”を外し、新しい働き方への模索が始まった。
パーソル総合研究所の調査によると、4月中旬の正社員のテレワーク実施率は平均27.9%。1カ月前の3月と比べて倍増した。東京都に限れば、実に約半数の企業がテレワークに移行した。同研究所上席主任研究員の小林祐児さん(36)はこう指摘する。
「状況を反射神経的に瞬時に判断し、高い透明性をもって従業員とコミュニケーションを取れた企業と、そうでない企業の差が如実に出たのがコロナショックでした」
実際、接客業や製造業の生産ラインの現場など、テレワークが難しい企業もある。だが、重要なのは、いかに従業員と向き合い、スピーディーに判断したか。また、社員からボトムアップで変化に対応できたか、だ。
メルカリがまず取り組んだのは、環境整備だった。最初の数週間は、自宅にWi‐Fi環境がない社員のためにモバイルWi‐Fiを貸し出すなどしたが、現場からは「すぐに容量を超えてしまう」といった声も上がった。