「正直言うと、なんとなく答えちゃったんです。いかにして西武球場ライブは始まったのか? 私のなかでの答えは『なんとなく』です(笑)」(渡辺美里『ココロ銀河~革命の星座~』より)

「なんとなく」始まった日本の女性ソロアーティスト初のスタジアムライブ。これが大成功し、次の年も、またその次の年も開催され、第4回目には落雷と嵐によって中断され「伝説のライブ」と呼ばれることになった。まだ屋根のなかった西武球場のステージで大雨に打たれながらアカペラで披露した『My Revolution』や、泣きながら「雨のバカー!」と叫んだ渡辺美里の姿は、今でもファンの間で語り草になっている。

 スタジアムライブが重要なのは、単にその規模が大きいからだけではない。ロマンティックなストーリーがあるからでもない。彼女がこうしたライブを通してライブパフォーマンスにおけるひとつの雛形をつくったからだ。

 ドームやスタジアム規模のライブに行ったことのある人ならば、「アリーナー! スタンドー!」とアーティストがオーディエンスを煽るのを見たことがあるだろう。このような盛り上げ方は今では珍しくもなんともないが、では誰が最初にそれをやったのかと言えば、渡辺美里なのである。小室哲哉は、とあるインタビューで次のように述べている。

「ああいった言い方を、MCというよりは盛り上げ方の手法を日本で生み出したのは彼女なんじゃないかなあと思いますね」(「名盤ライブ『eyes』渡辺美里THE BOOK」、小室哲哉のインタビューより)

 これが事実だとすると、パフォーマンスにおいて渡辺美里の影響を受けていない日本のアーティストはほとんどいないとさえ言える。こうした盛り上げ方をしないという選択肢も含めて、すべてのアーティストは、意識的にしろ無意識にしろ、渡辺美里がつくりあげた雛形をベースにステージ上での振る舞いを選択していることになる。この点において、渡辺美里は、日本のポップミュージックにおける母のような存在である。(山田宗太朗)

※「歌手・渡辺美里がブレイクに寄与した大物アーティストの驚くべき多さと、今なお『新しい』理由」へつづく

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?