回答を寄せた京都の内科医(60代)は、これを「受診抑制による、別の医療崩壊」と表現する。

 医療崩壊というと、新型コロナに対応する医療者の逼迫(ひっぱく)した姿をイメージする人も多いだろう。だが、今回、アンケートから見えてきたのは、患者の激減によって、経営に深刻なダメージを受けている一般の病院、診療所の苦しい実情だ。

 今回のアンケートで「患者が減った」、あるいはそれに近い内容を回答した医師は、なんと4人に1人にあたる約350人にものぼった。

 回答の一部を紹介すると、「どこも受診控えで、経営が逼迫」(埼玉・50代・一般内科)、「クリニックは暇で、暇で……。昼寝をするようになった」(東京・60代・耳鼻咽喉科)、「オフィス街の当院は、人がいなくて患者数が激減のため苦しい」(大阪・60代・一般内科)などだ。

 受診控えで「治療の適切な時期を逃すことも、少ないがあった」(東京・20代・眼科)ことや、受診控えによって、ほかの疾患が手遅れになる可能性が高くなることを心配する声も出ている。ちなみに、回答を見る限り、感染者数が多かった地域だけでなく、国内のどこでも受診控えはみられるようだ。

 一方、「コンビニ受診のような必要性の低い診療が減少」(宮崎・30代・皮膚科)、「不要不急の患者の受診が抑制され、むしろ望ましい診療体制」(佐賀・40代・一般内科)、「余計な患者が来なくなったので、診療に余裕ができ、自分のしたかった医療ができている」(京都・50代・一般内科)など、不要な受診が減ったことを好意的に受け取っている回答もあった。

 ただ、診療科による差もあるようだ。取材に応じた新潟県内の公立病院に勤める産婦人科医(60代)は、「内科は激減しましたが、産婦人科は減っていません」。千葉県東金市にある浅井病院の精神科医、赤木孝匡医師(30代)も、取材に「一時期、患者さんは減りましたが、戻ってきています。受診せざるを得ないという事情があるので、そこまで影響はないと考えています」と答えた。

 ほかにも、「患者が多ければ儲(もう)かるという、日本の病院経営の脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りになった」(群馬・40代・救急医療)と、日本の医療制度に言及した回答も少なくなかった。(本誌・山内リカ、秦正理)

週刊朝日  2020年7月3日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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