![春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/6/8/412mw/img_688878d835dc3da60ef7505f42c7dab729320.jpg)
![イラスト/もりいくすお](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/9/d/840mw/img_9df75396ceac4065014257c78e605864206329.jpg)
落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「アラート」。
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「東京アラート」がなんなのかよく分からないままでいたら、いつの間にか解除されてしまった。なんだったんだ、東京アラート。東京駅で売ってるサクサク新感覚お菓子っぽいよな、東京アラート。田舎のお婆ちゃんに買って帰りたい、東京アラート。食べてみたらよくあるブルボンのお菓子と同じ味がした、みたいな、東京アラート。
レインボーブリッジが赤く染まり、かえってそれを観ようとお台場周辺に人出が増えたらしい。そら見たいよね、赤いレインボーブリッジ。お台場なんて我々田舎者からすれば観光地だもの。その一番の観光スポットを赤く光らせたらみんな観に行くって。新宿の都庁も赤くなったらしいけど、どうせ赤くするなら豊島区西部に住まう民の目に入る建物も赤くしてもらえないもんか。豊島清掃工場の煙突とか池袋パルコでもいいよ。トキワ荘マンガミュージアムでも千川駅前のライフでもココスでもいいです。豊島区民にも「東京アラート」を知らせて欲しかった。で、「東京アラート」がなんなのかもちゃんと教えて欲しかった、小池さん。
小池さんに一度会ったことがある。ま、先方は絶対に覚えてないだろうが私はよーく覚えている。あれは忘れもしない、たしか平成16~18年くらいのあいだのこと。季節は……夏だ。そう、めちゃくちゃ暑かった。場所はどこだ? たしか都内の丸の内だか有楽町だか大手町だか、そんなオフィス街だ。よく覚えているよ。
どこから来た仕事だったんだっけ? 「水撒いただけで○○円だけど、どう?」みたいなメールか電話かFAXが来た。その頃「打ち水」が流行っていた。「打ち水」自体は昔からあるけど、偉い人たちがことさらに「Let’s UCHIMIZU!」と持ち上げ始めたのだ。その時のなんとか大臣が小池さんで、その小池大臣の肝いりなのか、「めちゃくちゃ暑い都心でよってたかってひしゃくで水を撒く」という雑なイベントににぎやかしの若手落語家枠でよばれたのだった。
ビルの会議室が控室。そこで浴衣に着替え出番を待つ若手落語家数名。一番下っ端が私だった。「弁当ないのか聞いてこい」と先輩に命じられて、運営側に聞きに行ったら「申し訳ございません。今回のイベントでは食事のご用意はございません」と棒読みで言われた。「水撒くだけで飯食うつもりか」と顔に書いてあった。控室で2時間待機。
いざイベントスタート。浴衣に手桶とひしゃく。猛烈な暑さのなか小池大臣の挨拶。「暑いんだから早く撒かせろや」と皆でぶつぶつ言いながら挨拶を聴く。汗が流れる。口が乾く。挨拶は続く。続く。続く。続く。
驚いた。雨が降ってきた。空が真っ黒になり、にわか雨。急に挨拶が終わった。でも雨は降り続く。「さぁ、打ち水で東京を涼しくしましょうー!」と何事もないかのように進行する、ハート強すぎな司会者。小池さんはすぐに屋根の下に行っちゃった。雨に濡れながら打ち水をする名もない落語家数名。「早く落語で食べていきたい」とびしょ濡れのアスファルトを見ながら思ったっけ。
以上、どーでもいい「小池さんにまつわるアレはなんだったんだ」エピソード。ところで「打ち水は逆効果」ってホントなの? 教えて、小池さん。
※週刊朝日 2020年7月3日号
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