コロナ騒ぎに便乗して、寂庵の行事(法話や写経など)もすべて八月までお休みにしたので、ほんとに今はのんびりしすぎて、脳のしわものびきって、「コロナバカ」になりきっています。
ヨコオさんのおうちが黒住教の教祖の信者ということは、ヨコオさんから聞かされ、現代の黒住教の教主さんにも紹介してもらいましたね。
とてもモダンで粋で魅力的な教主さまでした。ヨコオさんと一緒に二度ほどお目にかかりましたが、覚えてくれているかしら?
ヨコオさんのお婆ちゃまが黒住教の神主さんだったことは、はじめて伺いました。
でもきっと、黒住教の神様がヨコオさんの絵の才能を守ってくれているのだろうと、納得がゆきました。
ヨコオさんの異常な才能は、たしかに神がかっていますもの。今度のコロナでヨコオさんはマスクアートをはじめられました。この絵で世の中を変えようとの下心があるなど、思わせぶりに、私たちの往復書簡に書いておられますよ。勿論冗談でしょう。
いや、もしかしたら、案外、そんな下心、いや本音が、ヨコオさんの頭の中には、ひそんでいるのかもしれない。
昔の御自分の描いた絵の人物に、現在、ヨコオさんが発明して自作されたマスクをかぶせて、
「あかんべえ!」
をさせ、こんな世の中、否定した意図が、ありありと見えるのです。そのあかんべえ!を見たとたん、見た者の心に、思わず笑いと、小気味よさがこみあげてきて、自分まで、べろを出して、
「あ、か、ん、べ、え!」
と、何かに向かって嘲笑したくなります。
そこに、思わぬ快感がもたらされるのです。一種の魔法ですね。
マスクをかけた人物は、みんな、かつてヨコオさんが描いた歴史上の、天才、奇才の、魅力的な男女ばかりです。
そうそう、よそゆきの水兵服を着せられた、五歳くらいの可愛いヨコオ坊やも、顔一杯のマスクをつけられて、
「あ、か、ん、べ、え!」
をやっています。
このお仕事は、とても高い値になりすぎ、商いには採算が合わないそうだけれど、暗い人類にユーモアを思い出させる革命をおこしたということで、ノーベル平和賞くらいもらっていいんじゃないかな?
と、不肖寂聴は、考えるのであります。
よい夢を。
※週刊朝日 2020年7月3日号