「連絡を取ったキャスト全員からOKが出て、『これは大変なことになったぞ』と思いました。一番の難関が、キャスト全員を、(オンライン会議システムの)Zoomに接続すること(笑)。そして入れたとしても僕を含め機械音痴ばっかりだったので、間違って途中で(会議システムから)退出して戻ってこられないことが絶対あるだろうと思ったんです」

 人数分の脚本制作もそれなりに難航した。相島一之さんの持っていた比較的保存状態の良い台本は初演のもので、ビデオを見てみると、初演と再々演ではずいぶんセリフが変わっていた。

「相ちゃんの初演の台本をベースに、僕が変更になったセリフを手書きで書いたら、妻鹿さんが全部パソコンで打ち直してくれた。みんなにホンが渡せたのが、本番の1週間ちょっと前。バタバタな状態でした」

 三谷さんも登場したリーディング劇は、5月6日に無事生配信され、前後編あわせて2万8千視聴を記録。5月末までYouTube上で公開され、視聴数を伸ばした。

「何十年前のこととはいえ、一度はその役を演じたことのあるメンバーが多かったので、リモートでの短い稽古期間でも、なんとかなったのだと思います。僕自身も演じながら、何度となくフワッと、当時の光景が蘇ってきました」

「12人~」のプロジェクトをスタートさせて以来、近藤さんの元には、いくつも、「これ、やりませんか?」という話が舞い込むようになった。若い俳優から、「Zoomで芝居を配信する“劇団Zooooom!”を作るので、ぜひ出てください!」と頼まれたり、本多劇場が主宰する一人芝居の話がきたり。

「やるかやらないかを決めるときに大事にしていたのは、自分がワクワクするかどうか、それだけでした。だって、今の時期なら、失敗しても許されるじゃないですか(笑)。すべてが元どおりになるまで待つ、という選択肢もあるかもしれないけれど、新型コロナ感染症が収束しても、次にまた何か恐ろしいことが起こるかもしれない。それなら、とにかく動こう、と」

 6月5日には、有料で生配信される一人芝居「DISTANCE」にも出演した。

「無観客での芝居だったんですが、それが、なかなか経験したことのない緊張感で。『この緊張感が楽しくて役者をやめられないんだな』と思いました。自分は“芝居バカ”だということを再認識しましたね(笑)」

>>【後編/“Zoom俳優”近藤芳正 コロナ禍で「原点に立ち戻れたことはいいこと」】へ続く

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2020年7月10日号より抜粋

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