自粛期間中、演劇好きの間で話題になったZoomを使った演劇「12人の優しい日本人を読む会」。その立役者が俳優・近藤芳正さんだ。“災い”を“福”となすべく、今日も彼はワクワクの方向へと動く。
自粛期間に入るまで、京都で撮影をしていた。緊急事態宣言が発令され、撮影は中止に。新幹線に乗って東京に戻る途中、頭の中で、かつて津川雅彦さんの口癖だった言葉が、何度もループした。
「起きたことが正解」
6月に予定されている一人芝居も、このままでは中止せざるをえないかもしれない。日本は、世界はこれからどうなってしまうのだろう。経験したことのない混乱の中、その津川さんの言葉を反芻するだけで、気持ちが落ち着くような気がした。嵐のような不安が渦巻く心に、ふと、凪の瞬間が訪れるような。
「津川さんとは、何度も共演させていただいたんですが、何事にも動じないというか、起きたことすべてを受け入れる、人としての器の大きさを感じる瞬間が多々ありました。撮影というのは、なかなか予定どおりには進まない。今日撮るはずだったシーンが、何かの都合で次の日に延期になったりする。そういうとき、俳優は大体ガッカリするものですが、津川さんだけは、まるで自分に言い聞かせるように『起きたことが正解』とつぶやかれていた。今になって、津川さんのそんな短い一言が、僕の精神安定剤になってくれたんです」
東京に戻り、特に何をすることもなく過ごしていると、女優の妻鹿(めが)ありかさんから「オンラインで、チェーホフの『桜の園』を一緒に読みませんか?」という誘いがあった。
「『桜の園』じゃ重いから、もっと軽いものにしようよ、と僕が提案すると、彼女が、『三谷(幸喜)さんの“12人の優しい日本人”が読めたらいいんだけど』と言うので、『それなら、僕から聞いてみるよ』と。三谷さんは快諾してくれて、そこから出演者が決まっていったんです」
「12人の優しい日本人」といえば、三谷さんが旗揚げした劇団“東京サンシャインボーイズ”の代表作。近藤さんは、この作品が再々演された際に出演し、以来、ほとんどのサンシャインボーイズの舞台に立つようになった、思い出深い作品でもある。