それ以来、毎日先の見えない就活のことで頭が一杯になった。将来を考えすぎて眠れなくなる日もあったが、伊藤さんは家族の誰にもこの状況を打ち明けられなかった。

「恥ずかしいとか、プライドが許さないとかそんなことではなく、家族に余計な干渉を受けたくなかったんです。家族に干渉されて、哀れみの視線と表面的な言葉をかけられるくらいなら、一人で悩んでいる方がずっとマシでした」

 伊藤さんはいわゆる“機能不全家庭”で育ったという。家族全員でだんらんできるはずの食卓でも、伊藤家では誰もしゃべらず、音も立てない……無音の食事が日常だった。

「アニメの『サザエさん』で見るような家庭生活は経験したことがありません。物心ついた時から“変な家族だな”という感覚はありましたが、いつの頃からか深く考えることはやめました」

 家族の誰にも、何も話さない。こんな状態になってしまった大きな要因は、

「家庭内で話したことを、すべて親戚や友人に話してしまう家族がいたからです」

 プライベートな内容も、その家族に話せばすべてが筒抜け状態。それを恐れ、いつからか誰も自分の事を話さなくなった。それこそ、内定打ち切りになったことなど話してしまったら、親戚中から“かわいそうな人”というレッテルを貼られてしまう。伊藤さんは「それだけは絶対に避けたかった」と語る。

 そんな環境のなか、大学卒業までの期間はキャリアセンターで求人を探す日々が続いた。家族に気づかれないよう、就職活動に必要な衣類はサブバッグに入れて面接先の最寄りのトイレで着替えた。そんな努力が実り、活動を始めて1カ月後には地方銀行への就職が決まったのだが……。

「結局、銀行も5年ほど勤めて辞めてしまいました」

 内定打ち切りという過酷な経験をして、必死な思いで勝ち取った就職先。一体なぜ辞めてしまったのか。

「お局様との関係性と、早期退職者募集がきっかけです」

 伊藤さんは入社後、配属された支店で50代の女性社員から「指導」という名のいびりを受け続けた。理不尽な叱責、“調子こくな”や“地方に飛ばされるぞ”などの暴言。その女性が異動するまでの2年半もの間、毎日のようにいびられたという。

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エスカレートする「お局」からのいびり