研究に用いたDFATとは、同学部応用生物科学科教授の加野浩一郎さんと同大医学部教授の松本太郎さんが特許を取得した細胞だ。

 イモリのしっぽは切断されてもまた生えてくる。それは切断部分の筋細胞がこれまでの細胞の特徴を失い、別の組織となる線維芽細胞に変わることによる。

 哺乳類の場合、腕を切断すると、再び生えてくることはない。つまり、イモリのしっぽが持つシステムを持っていない。

 加野さんは、哺乳類の脂肪組織から分離した成熟脂肪細胞をフラスコ内で培養すると、線維芽細胞のようになり増殖を始めることを発見した。この“線維芽細胞(せんいがさいぼう)のようなもの”がDFATだ。

「DFATは不純物が少なく、動物の年齢の影響を受けずに健康な細胞を採取できます。今回の研究で、遺伝子をいじらなくても神経細胞へとリプログラミングできるようになりました。今までよりシンプルな方法で、臨床応用へ向かうことができるのです」(杉谷元教授)

 再生した神経細胞が本当に神経細胞としての役割を果たしているかについても、データを取ることができた。詳細は、科学と医学分野の論文を扱う科学雑誌「PLOS ONE(プロス ワン)」に掲載されている。

 今回の研究結果は、犬の中枢神経の再生医療、ゆくゆくは人間の中枢神経の再生医療に向けての第一歩だという。研究が進めば、従来の方法では回復が望めなかった椎間板ヘルニアや脊髄損傷などで苦しむ犬たちの救世主にもなりうる。さらなる進展に期待したい。(ライター・羽根田真智)

AERA 2020年7月13日号