「私が前を向かなければ、その気持ちが選手たちにも波及してしまう」

 感情を押し殺して選手たちを鼓舞した関口監督だったが、行き場のない悔しさはあった。岩手県内では新型コロナウイルス感染者が全国で唯一確認されていない。春の選抜が中止になったことで、「夏はなんとか開催できるのではないか」という期待もどこかにあった。

「今思えば認識が甘かった。それでもやはり、(甲子園に)挑戦させてあげたいという思いがありました」

 盛岡大付は、花巻東と並んで県内の「2強」を形成してきた。花巻東はこれまで、菊池雄星(現マリナーズ)や大谷翔平(現エンゼルス)といった好投手を輩出してきた。彼らを打ち崩そうと、盛岡大付は打撃強化に力を入れてきた歴史がある。「豪打の盛付(もりふ)」と呼ばれるゆえんだ。そして今年は、これまでの打ち勝つ野球に加え、投手力にも自信があった。昨秋の東北大会では2回戦・準々決勝と2試合連続で完封勝利。それぞれ2人の投手が完封したことから、投手層の厚さにも手ごたえがあった。準決勝で仙台育英(宮城県)に敗れ、春の選抜出場権こそ逃したが、補欠校に選ばれるなど甲子園にあと一歩のところまで迫っていた。それだけに、「夏にかける思いは強かった」と関口監督は悔しさをにじませる。

 だが、思わぬサプライズもあった。関口監督が指導してきた12年間の歴代主将たちから、選手たちを励ますメッセージ動画が送られてきたのだ。それらをつなぎ合わせるよう編集し、約30分の動画ができた。選手たちとともに動画を見た関口監督の目には、こみあげるものがあった。

「大学や社会人野球のユニホーム姿の者も、なかにはスーツ姿の者もいました。みんな本当に立派になった。話している内容がしっかりしている。なにより高校時代に私が言ったことを覚えていてくれたことがうれしい。選手たちには『男らしくなれ』ということをよく言うのですが、彼らにはちゃんと伝わっていたんですね。思わず泣きそうになりました」

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優勝して初めて、本当の悔しさを感じることができる