新型コロナウイルス感染症の初期症状は風邪やインフルエンザと区別がつかない。医師は試行錯誤しながらさまざまな既存の薬物の投与を試みてきた。その中で最も期待を集めたのが、新型インフルエンザ治療薬のアビガンだ。安倍晋三首相は早期の承認を目指していたが、厚生労働省が慎重姿勢を崩さず、見送りになっている。
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アビガンをインフルエンザで使う際の総量は8千ミリグラム。コロナでの標準用量は2倍以上の1万8640ミリグラム。初日に1800ミリグラム(9錠)を2回、2日目以降は1日1600ミリグラム(8錠)とされている。平均使用日数は10.4日間だから、1日平均約1800ミリグラムとなる。
NPO法人「医薬ビジランスセンター(薬のチェック)」(大阪市)の理事長で内科医の浜六郎医師によると、人によっては平均血中濃度が極端に上昇することがあり、この用量は非常に危険だという。
「治験のデータをもとに、コロナに使われるアビガンの標準用量で血中濃度を比較してみると、イヌなどを使った実験では、無毒性量(与え続けても動物に有害な影響がみられない最大の投与量)の2~5倍で、イヌの毒性量と同じになりました。人によっては致死量に達するのです。8週齢の幼若イヌは、無毒性量の2倍で12匹中9匹が死亡しました。死因は肺炎、肺や肝臓の血栓、肺梗塞などです。コロナも肺炎だけではなく、血栓が体のあちこちにできることがわかっています。つまり、アビガンを使った治療で患者が死亡した場合、死因が感染症によるものなのか、アビガンの害なのか区別がつかないのです。アビガンの副作用とされる催奇性も問題ですが、致死量に近い使い方のほうが、さらに重大です」
7月10日には、全国の47医療機関で実施しているコロナ患者へのアビガン投与の臨床研究について、代表機関の藤田医科大(愛知県)が、患者の体内からウイルスが消えるなどの効果は、統計的に明らかな差が確認できなかった、などと発表した。参加する患者が少なく、統計的な差が出なかったとしている。
また、風邪やインフルエンザで抗生物質の処方を求める患者が少なくないが、薬剤師で『その「1錠」が脳をダメにする』などの著書がある宇多川久美子氏は「抗生物質は必要ない」と語気を強める。
「抗生物質はウイルスには効かないし、むしろ私たちが持っているいい菌まで殺してしまうので、絶対に飲まないほうがいいです。腸内細菌のバランスを崩して、免疫力を下げるということははっきりと言えます」
(本誌・亀井洋志、秦正理)
※週刊朝日 2020年7月24日号より抜粋